キャリアの森

「昇進すると激務になる」は誤解です ― 外資のマネージャーが教わった “more responsibility, but more freedom”

「将来マネージャーを経験したいのですが、今の会社ではマネージャーになると激務になって残業も増えるので、自分にはきついと思っています。もし昇進したら、キャリアアップのために腹をくくるしかないのでしょうか」

先日、こんな質問をいただきました。気持ちはよくわかります。でも、これには物申したいことがあります。私の経験から言うと、「昇進すると激務になる」は誤解です。

マネージャーになったとき、上司に言われた一言

私が以前いたアメリカの会社で、マネージャーになったとき。上司にこう言われました。

「more responsibility, but more freedom」

責任が重くなるぶん、自由度も増す ― という意味です。これがすごくしっくりきました。

確かに責任は増えます。それまでは自分の営業数字だけを見ていればよかったのが、アジア太平洋全体の数字を背負うわけですから、責任は何倍にもなる。でも、そのぶん自由度が増えるんです。どこの国にいても、何時に働いてもいい。その代わり、数字はちゃんと作れよ、という形です。

実際、私は夜中の3時くらいまで仕事をして、朝はゆっくり。昼くらいから動き始める、という働き方をしていました。アメリカとタイムゾーンが重なる時間帯のほうが仕事が進むからです。「朝一に来い」もないし、海外を転々とするような仕事なので、そもそも縛りようがない。電話さえ持っていれば、どこでも仕事はできましたから。

なぜ「昇進=激務」になってしまうのか

ここで気づいてほしいのは、「激務になり、残業が増える」という状況は、自由度が増えない会社の立て付けと、マネージャー本来の仕事が相反しているということです。

おそらく日本の会社だと、「マネージャーが全部やれ」という空気がある。中間管理職としてこき使われる。でも外資系では、マネージャーはとにかく「お世話係」なんです。「自分で手を動かしちゃいけません」と言われる。ハンズオンはやめろ、と。

もちろん大きな商談はプレスして取りに行きます。でも基本は、みんなが100%以上の力を出せる仕組みと環境を作ること。たとえるならボール拾いです。手に負えない案件がポロポロ出てくるのを、いつでも後ろで拾って返せるようにしておく。セーフティネットというより、お世話係なんですね。

「コピーロボット」を増やすのがマネージャーの仕事

では、お世話係に徹するとは具体的にどういうことか。

自分で手を動かせる仕事は、どんどん人に投げられるように切り分ける。それができないなら、できるように育てる。自分にビジネスを作れるノウハウがあるなら、それをひたすらコピーしていくんです。

『パーマン』というアニメに、コピーロボットというのが出てきます。鼻をビッと押すと、自分そっくりの分身が出てくる。パーマンはそれに自分の役をやらせて、あとで経験を共有する。マネージャーの仕事も、これに近い。自分のスキルや成功してきたやり方を、どんどんみんなに伝えて、同じことができる人を増やす。分身が増えていけば、組織は自分一人の限界を超えて動き出します。

そして自分は、その人たちがうまく動くように、仕組みを作り、交通整理をし、コミュニケーションの場を整える ― そっちの仕事に移っていく。

考えてみてください。自分が100%だったとして、マネージャーになって150%働く ― それはマネージャーじゃないんです。100%の自分を5人作れば、500%になる。それがマネージャーの仕事です。自分が激務になる前提でいる時点で、そのマネジメントは、あまりうまくいっていないのかもしれません。

部下に自分の分身になってもらうには、日々の「承認」が欠かせません。具体的なやり方は部下は「褒める」な、「承認」せよに書いています。

自分がオールマイティでない、という前提に立つ

社長になっても、この考え方は変わりません。

私は経理のプロでもないし、技術にそこまで詳しいわけでもない。つまり、自分にできないことを人にお願いすることのほうが、圧倒的に多いんです。オールマイティではないから、自分一人ではボールを拾いきれなくなる。

だからこそ、どこにどういう配置にすれば効率よく回るのか、その中でどんな知識やスキルをコピーしていくべきか ― それを常に考える。網の目のように、誰かが抜けても安定する組織を編んでいく。能力を伝達することでチーム全体のスキルが上がっていくので、教育や仕組みづくりはしっかり考えないといけません。

昇進して最初の90日が、転びやすい

最後に、これから昇進する人へ。

『ファースト・ナインティ・デイズ(最初の90日)』という本があります。日本語訳も出ています。私が外資系に営業として入り、その後マネージャーになったとき、上司から「これどうぞ」と渡された一冊でした。最初の90日でどうマネージャーになるか、マインドセットをどう変えるか、という内容です。私はその通りにやりました。そして後で、同じ内容がMBAの教科書にも出てきたんです。

マネージャーは、それまでとは少し違う観点でものを考えないといけない。だから、やったことがない人は最初に転びやすい。この本を読んでおくと、転びにくくなる ― というより、転んでも傷が浅くなります。大ゴケすると、手のつけようがなくなりますから。


「昇進=激務」という思い込みを手放すこと。自分が150%働くのではなく、全員が120%働ける組織を作ること。この発想の転換ができるかどうかが、責任とともに自由を手にできるかの分かれ目です。

こうしたリーダーシップや組織論は、本来はビジネススクールで2年かけて学ぶものです。でも、その中身のエッセンスは、行かなくても学べます。「MBAに行かない人のための無料メール講座」で、世界基準の経営思考を少しずつお届けしています。入口として、受け取ってみてください。

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