キャリアの森

「起業したいけど、いいアイデアがない」人へ ― ハーバードで教わった、ゼロイチを生まない発想法

「起業したいのですが、いいアイデアがありません。どうやって思いつけばいいですか」

これは、起業の話をするたびに必ず来る質問です。多くの人が、ここでつまずく。「世の中にない、まったく新しいもの」を生み出さなければ起業できない、と思い込んでいるからです。

でも、それは誤解です。私はハーバード・ビジネス・スクールでイノベーションの講義を受けましたが、そこで教授が何度も念を押していたことがあります。ゼロイチは、どこかの天才に任せておけばいい。 私たちビジネスパーソンは、そこまでの天才でなくても、十分に戦えるアイデアを作れる、と。

今日は、その「作り方」を4つのパターンに分けてお話しします。アイデアは、ひらめくものではなく、ある程度は型から出てくるものです。

パターン1:自分の専門分野で独立する

一番堅いのが、これです。

たとえば、監査をずっとやってきた人が、その道のプロになって、監査コンサルで独立し、上場まで持っていった ― そんな知り合いがいます。専門分野は、その人しか知らないノウハウだから、外には出てこない。だからこそ強い。

ただ、「それがあったら苦労しない」という話でもありますよね。だから、ここからが本題です。

パターン2:専門分野を持つ人と、一緒に創業する

自分にアイデアやスキルがなくても、それを持っている人と組めばいい。

たとえば、ずっとフリーランスでプログラムを書いているようなマニアックなエンジニアの友人に、「最近こういうアイデアを考えてるんだけど、どう?」と相談する。「そんなの全然すぐ作れるよ」と返ってくれば、「じゃあ一緒にやろう」となる。

スティーブ・ジョブズとウォズニアックの関係がまさにこれです。コアな技術を持つ人と、それをビジネスにする人。私自身は事業計画を描いてビジネスにしていく側が得意なので、技術側の人がいれば組める。専門分野を持つ人と知り合っておくこと自体が、立派なアイデアの源泉になります。

パターン3:1+1のインクリメンタル・イノベーション

「世にない新しいもの」を生もうとするから、難しくなる。でも、今あるものを2つ組み合わせるだけなら、ぐっと簡単になります。

iPhoneだって、いきなりあの形を作ったわけではありません。電話に音楽プレーヤーを足したらどうか ― かつてのソニーのウォークマン携帯のように、独立した2つの機能をくっつける。これがインクリメンタル・イノベーションです。ゼロから1を生まなくても、1+1で十分にビジネスになる。「何と何を足すか」を考える。これだけで、発想はぐっと楽になります。

パターン4:「ネガティブ」を解消する

最後は、日常の不満や使いにくさを解消する発想です。

こんな話があります。あるメーカーが、普通の家庭にカメラを設置して観察したところ、お年寄りが椅子を机に乗せ、その上に立って電球の傘の埃を払っていた。倒れたら骨折する、非常に危ない光景です。そこで「お年寄りでも安全に使える、軽くて高いところに届くモップ」を作ったら、馬鹿売れした ― あの静電気でホコリを吸う軽いモップですね。

日常のネガティブは、たくさんある。でも私たちはたいてい「危ないなあ」で見過ごしてしまう。そこを「解決できないか」と考えた瞬間に、イノベーションの種が見つかります。

関連して、破壊的イノベーションの考え方も役立ちます。クリステンセン教授の教えで言えば、ビジネスの本質は「いかに利用してもらいやすくするか」。Faster(早く)、Better(より良く)、Cheaper(より安く)。たとえば総合病院のサービスを自宅に持ってくる在宅診療や、ワンコイン診療のように、ハイエンドなものをより身近にする。「これを3倍安くできないか」と常に考えていると、ヒントは無数に出てきます。

アイデアは「書いて、人に話す」と育つ

最後に、実践的なコツを一つ。

私自身、創業アイデアをいくつも書きためています。そして、思いついたらすぐ、その分野を知っている人に話すんです。あるとき人事系のサービスを思いついて、ヘッドハンターに電話で「こういうの、どう思います?」と聞いたら、「めっちゃいいですね、今すぐ会社辞めてやりたいです」となり、本当に起業しかけたことがあるくらいです。

素人のアイデアでも、その道のプロに話すと、いい反応や思わぬ視点が返ってきて、アイデアが枝分かれして育っていく。アイデアは、頭の中で完璧にしてから出すものではありません。書いて、人に話して、育てるものです。

それでも最後にものを言うのは、粘り強さです。タリーズコーヒーを日本に持ってきた松田公太さんの『すべては一杯のコーヒーから』を読むと、本国の代表に何度も何度もメールを送り続け、塩対応にもめげなかったエピソードが出てきます。私もこの本で、何度も「諦めない心」を取り戻してきました。創業も副業も、結局はそこに行き着きます。

起業もまた、キャリアの選択肢の一つです。どこを目指すかから引き算する考え方はキャリアは「逆算」で決めるで書いています。


「いいアイデアがない」のではありません。そういう目で世の中を見ていないだけです。専門分野、人との組み合わせ、1+1、ネガティブの解消 ― この4つの型で日常を見渡せば、アイデアは溢れていることに気づきます。

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