キャリアの森

20人の最終候補から外資の社長に選ばれた決め手は、「青いネクタイ」だった

「最終面接、どうすれば受かりますか」とよく聞かれます。

私は36歳のとき、ドイツ企業の日本代表(社長)に就任しました。あとで知ったのですが、その椅子には20人の最終候補がいて、ほぼ全員が私と似たキャリア ― 外資系勤務、英語が話せて、海外経験があり、MBA持ち、年齢も近い。スペックでは横一線です。

その中から最終的に選ばれた。決め手が何だったか。本人に直接聞いたら、こう言われました。「青いネクタイだよ」と。今日は、その一部始終をお話しします。スペックで差がつかない勝負を、どう抜けたかという話です。

きっかけは「土曜、六本木に来てほしい」の一本の電話

MBAを2年かけて取り、燃え尽きていた頃でした。何のやる気も起きず、ぼーっとテレビを見ているような時期です。

そこへ、ヘッドハンターの友人から電話。「土曜、空いてますか。一人穴が空いちゃって、履歴書持って来てほしいんです」。正直めんどくさかったのですが、お世話になっている人だし暇だったので、適当に書いた英語の履歴書を持って出かけました。どんな会社かもよく知らないまま。

面接では話すことが特になかったので、アメリカに住んでいた頃の「サバイバル話」をしました。医療費が350ドルもした、車のナンバープレートを盗まれた、いきなり裁判所から出頭命令が来た ― そんな苦労話を一時間。相手のドイツ人は大笑い。実のある話はしていないのに、なぜか一次面接を通過しました。

最終面接はドイツ。着いて、まず20km走った

何度かのフォローアップを経て、最終面接はドイツ・デュッセルドルフへ。先方が旅費を出してくれるというので、読みたい本を抱えて、半分のんびりした気持ちで向かいました。

ただ、準備だけはしました。企業分析と、200ページほどのプレゼン資料。生まれた土地の風景、家族構成、今のチームのマネジメント状況まで、答えられる範囲で全部仕込んでおいた。

そして現地のホテルに午後4時半に着いてから、私は着替えて20km走りました。GPSで記録を取りながら、石畳で足をくじきそうな街並みを、ライン川のほとりまで。なぜか。翌日のプレゼンの最初のスライドを作るためです。「日本から来ました」では面白くない。「成田から12時間飛んで、着いてすぐ20km走り、ドイツビールを飲んだ」というスライドを5枚作って、最終面接の朝を迎えました。

アイスブレイクで、相手のアテンションを根こそぎ掴む

面接は大きな会議室で、社長を含む面接官お二人と。冒頭、「昨日の写真から」とそのスライドを見せました。

着いて2時間半かけて20km走った実走ルートの地図、途中の写真。めくるたびに、相手は大笑い。「こいつは何を考えてるんだ」「疲れてるんじゃないのか」と。普段走らない人にとって、20km走る人間は鉄人のように見える。「この仕事は体力勝負だ」というメッセージにもなる。最初の3分で、相手の関心は完全にこちらを向きました。そこからノンストップで2時間、生い立ちから「御社で私にできること」まで一気に話しました。

仕込んだネタは500個。でも、効いたのは1つ

実は、ほかにも大量のネタを仕込んでいました。

ドイツ人は家族を大事にすると聞いていたので、家族写真を焼いて持参。はじめましてレベルのドイツ語も勉強。そして ― 会社のコーポレートカラーに合わせて、ネクタイと時計のバンドを買って身につけ、最後のスライドに「面接までにやったこと」として並べました。

ところが、家族写真を使う場面はなく、ドイツ語もあまり受けなかった。後で振り返れば、準備した500個のうち、実際に効いたのは10個もない。無駄になったものばかりです。

それでも、決め手はその中の1つ ― コーポレートカラーのネクタイでした。本人いわく「この人だったら、そこに生活が見える。ネクタイを選ぶときも家族で楽しみながら選んだのかもしれない。周りのみんなが、この人が社長になることを賛成してくれそうに見えた」。スペックではなく、人としてどう見えるかで選ばれたのです。

スペックで差がつかないなら、伝わるのは「姿勢」

この経験から、私が言えることは一つです。

20人が横一線のとき、勝負を分けるのはスペックの上積みではない。準備の量そのものが、信念やコミットメントとして滲み出て、人の心を動かす。500個仕込んで効くのが10個でも、その500個を準備した姿勢は伝わる。20km走るのも、コーポレートカラーを選ぶのも、面白おかしくやるためではなく、「真面目な、バカみたいな本気」を見せるためです。

後日談があります。就任一年の節目に、紹介してくれたヘッドハンターへ、お礼にあの「伝説のネクタイ」と同じものを送りました。一度配送事故で消えてしまい、買い直して再送したら ― 届いたのが、偶然にも彼の誕生日。「中谷さん、持ってますね」と言われました。縁というのは、思いを込めて手を動かした先に、こうしてつながっていくのだと思います。


最終面接は、スペックを並べる場ではありません。この人と一緒に働きたい、と思わせる場です。そう考えると、準備の方向も、当日の振る舞いも変わってきます。

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