面接の対策というと、たいてい「どう話すか」「どう見せるか」に向かいます。それも大事です。でも、私は外資系の社長として何度も採用する側に立ってきて、思うことがあります。選考が内側でどう動いているかを知らないまま準備するのは、地図を持たずに山に登るようなものだと。
今日は、面接される側にはふだん見えない「採用の内部構造」をお話しします。これを知ると、準備の方向がはっきり変わります。
まず、書類は「細かく見られていない」
身も蓋もない話から始めます。人気のある会社に応募が殺到すると、エントリーシートや履歴書は、実は一枚一枚じっくり読まれていません。
新卒採用を毎年大量にやる会社なら専任の担当者もいますが、中途や単発の採用では、人事が兼務でさばいていることが多い。200枚の書類を精読する時間は、現実には取れないのです。だから、書類選考は「針の穴を通す」ような運の要素が大きい。字がきれいだった、たまたま見栄えがよかった、その程度で通ったり落ちたりします。
ここで大事なのは、書類で勝負しようと頑張りすぎないこと。角度の低い勝負に消耗するより、もっと効く一手があります。
採用は「消去法」で動いている
これが、いちばん知っておいてほしいことです。会社の人事は、加点法ではなく消去法で人を絞っていきます。
「この人は大暴れするけど、ずば抜けたパフォーマンスだから責任を持って推す」── そういう採用は、現実にはあまり起きません。人事担当者にも責任の範囲があり、リスクを取りにくい。だから「おとなしくて、会社の方向性に沿っていて、無難な人」が最後に残りやすい。出る杭が選ばれるのではなく、消去されずに残った人が選ばれるのです。
外資系では、これがさらに仕組み化されています。面接にはたいてい3人ほどが入り、それぞれが採点する。ポジションごとに比重が決まっていて、直属の上司の点は重い、といった具合です。そして全員の点数を合算する。私自身、採点した点が上の人とまるで違ったことが何度もあります。短時間でポテンシャルなど見抜けないので、評価はどうしても割れる。割れた点数を合算すると、結局は平均化され、突出も埋もれてしまう。
ここから導かれる戦略は明確です。平均化されても残れるようにしておくこと。トラックレコード、経歴、そして「この人なら、もし失敗しても自分の責任は問われないだろう」と思わせる安心感。これが効きます。
唯一、肩書きが効く場所
消去法・点数合算という構造の中で、MBAのような肩書きが効くのはまさにここです。
AさんとBさんが拮抗していて、片方がMBA保持者だったとする。すると「MBAを取っている方にしておけば、もし期待外れでも仕方ないと言える」という空気が流れる。中身を本当に理解しているかは別問題で、肩書きそのものが、評価者にとっての「安全な選択の理由」になるのです。とくに外資はMBOを重く見る文化があるので、上司がMBA保持者なら、なおさら効きます。
身も蓋もないですが、肩書きとはそういう使われ方をするものだ、と知っておくと冷静になれます。
「クオリフィケーションは満たさなくていい」
求人票の条件(requirement)を、額面通りに受け取りすぎないことです。
たとえば「社長経験5年以上」と書いてあっても、その全部を完璧に満たす人は、たいてい存在しません。30代後半で社長経験5年以上、などという人はほぼいない。探してもいない条件は、そもそも条件として機能していないのです。会社は結局、それに「近い人」を採って、足りない部分を別の何かで補えるかを見ている。
だから、全条件に当てはまらないからと諦める必要はありません。私自身、業界も職種もまるで違う案件で社長に就いた経験があります。足りない部分を、熱量や別の素養で埋められると示せればいい。ないものねだりの条件に怯まないことです。
最強の準備は「一番近い人から情報を取りに行く」
では、何を準備すればいいのか。私が必ずやるのは、そのポジションに一番近い人、できれば選考の判断をする人から、直接情報を得ることです。
会社の外から見える情報だけでは、的を外します。だから私は事前に質問状を送ります。「今この会社の課題は何ですか」「全社目標に対するギャップはどこですか」── できるだけスペシフィックに聞く。一般論で「世界経済が」「コロナが」と語っても、その会社に関係なければ刺さりません。
社長案件でも同じで、ヘッドハンター経由で「事業拡大のネックは何か」を聞いておいてから面接に臨む。トップがやりたいことと、人事が考えていることは、たいていズレています。だから、できるだけ判断する人の近くから生の情報を取る。そして面接で「事前に〇〇さんに伺ったのですが」と返せれば、信憑性が一段上がります。
ここから先は逆算です。集めた情報をもとに、想定される質問をExcelにマトリックスで並べ、答えを用意しておく。質問の型は、面接する側のツール(ターゲットセレクション)とほぼ同じなので、立場を裏返せば予測できます。
カルチャーフィットの正体は「準備に込めた心」
最後に、外資がよく口にする「カルチャーフィット」について。これは曖昧に聞こえますが、私が採用する側として見ているのは、もっと具体的です。
この面接に、どれだけ心を込めて準備してきたかを見ています。何十社のうちの一社として流れ作業で来た人か、この一社に集中して来た人か ── 質問を返せばわかります。会社のことを事前にどこまで調べ、どんな思いで臨んでいるか。多少答えが間違っていても、「分かりません」で済ませず、自分なりに考えてきた跡があるか。私は一時間の面接をいただくのに、最低でも数時間かけて準備します。同じ姿勢を、一緒に働く相手にも求める。それがリスペクトであり、私にとってのカルチャーフィットです。
採用は、加点ではなく消去で動き、点数は合算で平均化され、肩書きは「安全な選択の理由」として使われる。条件は満たしきれなくていい。だからこそ、判断する人の近くから情報を取りに行き、この一社に心を込めて準備する。選考の内側を知ったうえで準備する人は、強いのです。
私が外資のキャリアやMBAで培ったこうしたキャリアの考え方は、「MBAに行かない人のための無料メール講座」で少しずつお届けしています。次の選考に臨む方の地図として、受け取ってみてください。