「いい本を読んだはずなのに、いざ使おうとすると『あれ、どこに書いてあったっけ』と思い出せない」
これ、本当によくありますよね。私も記憶力がそんなにいいほうではないので、せっかく読んだ内容がすり抜けていく感覚は、痛いほどわかります。
そこで私は、ずいぶん前からある習慣を続けています。読んだ本の「ここだ」という部分を、すべてエクセルに抜き書きしておく。 2007年頃から続けているので、もう十数年分が一つのデータベースになっています。今日は、この記憶に頼らない知的生産術の話をします。
「記憶することをやめて、エクセルに書く」
私の基本方針は、はっきりしています。自分が記憶することを、やめる。 その代わり、全部エクセルに書いておく。
本を一冊じっくり読んで、「これは後で使える」という箇所を抜き出し、エクセルに書き写していく。速読や瞬読のように何冊もダーッと読む、というのとは逆です。本当にいい本だと思ったものは、時間をかけてじっくり読み、エッセンスだけを残していく。
こうしておくと、後から見返したときに、その本を読んだ当時に考えていたことまで一緒に蘇ってくる。記憶という不確かなものに頼らず、いつでも引き出せる「外付けの脳」を持っているような感覚です。
この習慣が、本を書くときに効いた
私が本(『オニオンリーダーシップ』)を書いたとき、この十数年分の抜き書きが、想像以上に役に立ちました。
ビジネス書を書くというのは、8万字を自分の言葉だけで埋める作業ではありません。自分よりうまく言語化している先人がたくさんいる。その言葉を借りて、自分の言いたいことを伝える。そういう構成が、いちばん書きやすい。
そのとき、「あの本のあの箇所を引用したい」と思っても、本文を全部読み返すのは大変です。でも私のエクセルなら、キーワードで検索すれば「どの本のどこに書いてあったか」がすぐ出てくる。十数年分の読書が検索可能な状態になっている ― これは大きな時短になりました。
失敗から学んだ「ページ番号を必ず残す」
ただ、一つ反省もあります。ページ番号を控えておけばよかった。
本を出版するときは、引用箇所を一字一句チェックされます。「この引用、どの本のどこから取りましたか」と確認を求められる。ところが私は本文だけ抜き書きしていて、ページ数を残していなかった。しかも、読みながら速く打つので、抜き書きの時点でタイプミスが混じっていたりする。結局、元の本を買い直して照合し直す羽目になりました。
だから、これから読書メモを取る人には、ぜひ勧めたい。抜き書きと一緒に、書名・著者・出版社・発行年、そしてページ番号まで残しておく。これだけで、後の引用作業が劇的に楽になります。
実際のエクセルは、こうなっている
「エクセルに抜き書き」と言っても、どんな形なのか想像しにくいと思うので、実物の一部をお見せします。

作りはとても単純です。最初のシートが「目次」で、1冊につき1行。番号、ジャンル、書名、著者、読了日、読むきっかけ(誰に勧められたか)を書いています。番号をクリックすると、その本専用のシートに飛びます。本のシートには章の見出しを並べ、その下に抜き書きを段下げで書いていきます。
2007年にドラッカーの『経営者の条件』から始めて、今は200冊を超えました。ジャンルでいちばん多いのは日経の「私の履歴書」などの経営者の自伝で、戦略、心理学、リーダーシップ、交渉の本がそれに続きます。
一番右の「○」は、何度も見返した「よく使った本」の印です。200冊以上のうち○が付いているのは、次の4冊だけです。
- 三枝匡『戦略プロフェッショナル』
- マイケル・ワトキンス『The First 90 Days』
- クレイトン・クリステンセン『How Will You Measure Your Life?』
- 『ジャック・ウェルチ わが経営』
このあと書く大前研一さんの『企業参謀』は、目次に名前があるのに読了日が空欄です。途中でやめた本だからです。カーネギーの自伝は2015年に読み終えていて、後で紹介する墓碑の言葉もそのときに抜き書きしました。
これから始める人は、凝った形にしなくて大丈夫です。私の反省も込めて言うと、抜き書きの隣に「ページ番号」と「キーワード」の2列を足すだけで十分です。ページ番号があれば引用するときに困りませんし、キーワードがあれば後から検索で一発で見つかります。
「抜き書きできない本」こそ、本物
この方法を続けていると、本の「濃さ」が抜き書きの量に表れることに気づきます。一冊読んで抜き出すのが3行だけ、という本もある。逆に、いい本ほど抜き出す箇所が多くて、一冊に2〜3週間かかることもあります。
私がいちばん手強かったのは、大前研一さんの『企業参謀』です。抜き出したい箇所が多すぎて、途中でやめました。「これは自分で噛み砕くより、本そのものを読んだほうが早い」と。1ページ1ページが緻密で濃い。ああいう本は、いわば殿堂入りです。
カーネギーが墓碑に刻ませた言葉
抜き書きの中でも、特に私の心に残っているものがあります。
鉄鋼王アンドリュー・カーネギー ― 史上有数の富豪と言われる人ですが、彼が自分の墓碑に刻ませたとされる言葉が、こういう趣旨のものです。「ここに、自分より賢い人間を周りに集める術を心得た者が眠る」。
自分がすごいのではない。自分の周りにいた人が、自分よりすごかった ― それを堂々と言えるリーダーは、本当にすごいと思う。貧しい家に生まれ、幼くして自分で稼ぎ、お金と人のつながりを誰よりも大切にした人の言葉だからこそ、重みがあります。
実はこの考え方は、優れたマネジメントの本質ともつながっています。リーダーは自分一人で抱え込むのではなく、自分より優れた人に託し、活かす。読書の抜き書きが、自分の中でこうしてテーマ同士をつないでくれる ― これも、蓄積の効用だと思います。
とはいえ、抜き書きの時間をどう確保するかが問題です。その答えはやりたいことを先にカレンダーに入れる時間管理術に書きました。
記憶に頼らず、外に蓄積する。いい本ほど時間をかけて抜き書きする。そして、ページ番号まで残す。地味ですが、十数年続けると、これは確実に「自分だけの資産」になります。継続は力、です。
私がこうして蓄積してきた学びや、世界で通用するビジネスの考え方は、「MBAに行かない人のための無料メール講座」で少しずつお届けしています。インプットの質を上げる入口として、受け取ってみてください。
次回のキャリアの森:最終面接の決め手は「青いネクタイ」だった
