結論から言います。「顧客満足度を上げよう」と漠然と頑張っても、たいてい誰も満足しません。 なぜなら、顧客は1つの塊ではなく、求めるものが違う複数のグループ(セグメント)に分かれているから。誰が、何に満足しているのかを正しく捉えてはじめて、戦略が切れる。今回は、スターバックスの実例から、顧客フィードバックの正しい活かし方を学びます。
スターバックスにも「危機」があった
意外に知られていませんが、スターバックスは2007年頃に経営の危機を迎えました。そこで創業者的存在のハワード・シュルツ(後に米大統領選出馬も取り沙汰された人物)が復帰し、思い切った手を打ちます。900店舗を2年かけて閉鎖、13万人のバリスタを再教育、店舗での豆挽きを再開、自動エスプレッソマシンを廃止。
効率だけ見れば「なぜ?」と思う施策ばかりです。手で豆を挽き、自動マシンをやめれば、提供は遅くなる。でもシュルツは、スターバックスの価値である「コーヒーを淹れるロマンや劇場性」を取り戻そうとした。結果、2009年に株価は143%以上回復し、既存店売上も戻りました。スターバックスの価値は速さではなく体験にある——その原点回帰だったのです。
(補足:スターバックスのブランドメッセージは「家でも職場でもない、第三の場所」。高品質コーヒー、フレンドリーなサービス、割高な価格、直営店舗、リラックスできる内装。すべてがこのメッセージに紐づいています。)
満足度アンケートから見えたこと
危機にあたり、スターバックスは顧客満足アンケートを取りました。満足度(不満足〜とても満足)ごとに、来店頻度・平均単価・利用年数を調べたのです。すると、こんな傾向が出ました。
満足度が高い人ほど、来店回数が多く、単価が高く、利用年数が長い。
当たり前のようでいて、ここから重要な気づきが生まれます。スターバックスは、この問題を「顧客層の拡大によって、顧客満足度が低下している」と捉えました。店舗が増えて客層が広がった結果、最初からのファンと新しい客で、求めるものがズレてきていたのです。
顧客は1つではない ── 2つのセグメント
分析の結果、スターバックスの顧客は大きく2つのセグメントに分かれていました。
既存顧客 ── 顧客歴5年以上。富裕層で、単価が高く、ブランドへの信頼が高い。彼らが重視するニーズは、サービスやスタッフの知識。
新規顧客 ── 顧客歴1年未満。若者で、単価が低く、ブランドへの信頼はまだ低い。彼らが重視するのは、スピードやコーヒー以外の飲み物、友達と会う場であること。
同じ「スターバックスの客」でも、求めるものがまるで違う。だから満足度アンケートも、全体で見るのではなくセグメントごとに見ると、違った景色になる。既存顧客にはサービスや知識が刺さり、新規顧客にはスピードや多様なメニューが刺さる(清潔さ・便利さ・コーヒーの味は両方に共通)。
これが分かると、戦略が切れます。「どちらを、どれだけ満足させるか」を決められる。セグメントを分けずに「みんなを満足させよう」とすると、結局どっちつかずになり、両方が不満になってしまう。今回のポイントは、顧客満足を上げるために、正確な顧客セグメントを得ることです。
セグメントの4つの切り口
では、どうやってセグメントを切るか。これはMBAでも教わる定番で、4つあります。覚える必要はなく、組み合わせて使います。
– 地理的 ── 大陸・国・地域・県・市など、場所で分ける- 人口統計 ── 業種・従業員数・収入・企業形態など- 心理的 ── ソーシャルクラス・ライフスタイル・価値観・デジタルネイティブかなど- 行動 ── 使用法・ロイヤリティ・興味・認知度など
スターバックスの「顧客歴・単価・ブランド信頼」での分類も、これらの組み合わせです。
どの切り口が満足度を左右するかは、回帰分析の記事で数字として突き止められます。
もう一つの武器:ABテスト(鏡よ鏡)
セグメントで「誰に」を捉えたら、次は「何が刺さるか」を確かめる。ここで使うのがABテストです。
面白い話があります。ある場所では、スターバックスが道を挟んで2軒、鏡写しのように向かい合って建っている。なぜか。実はこれ、物理的なABテストなのです。内装も品揃えも何もかも同じ2店舗で、1か所だけ条件を変え、どちらの売上が高いかを比べている。「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」になぞらえた仕掛けです。
ABテストとは、同じページ(や店舗)で1要素だけ変えた2パターンを用意し、結果の良かったほうを選ぶ手法。Webサイトでは、AさんとBさんが見ている画面が実は違う、ということが日常的に起きています。レイアウト、コピー、ボタンの配置、写真——1つだけ変えて、売上やクリックの高いほうを採用する。スターバックスは、それをネット上ではなく現実の店舗でやっていたわけです。
その威力は、実例を見ると分かります(どれも「やってみないと分からない」結果です)。
– オバマ陣営の寄付ページ ── 「一人の写真+Sign Up」より「家族の写真+Learn More」のほうが、寄付が40.6%多く集まった- ホテル予約サイト ── 縦並びレイアウトのBが、横並びのAより52%多かった- ECボタン ── “Buy Now” が “Shop Now” より17%多かった
どれも「自分はこっちが良いと思った」という直感が外れることがある。だからこそ、自分の判断を信じず、テスト結果を信じて磨く。これがABテストの本質です。
ABテストの「どれくらいサンプルがあれば確かと言えるか」は、統計の基礎の記事で解説しています。
まとめ
顧客フィードバックの活かし方を整理します。
– 漠然と「満足度を上げよう」では誰も満足しない。顧客は複数のセグメントに分かれている- スターバックスは「既存顧客(5年以上・富裕層・サービス重視)」と「新規顧客(1年未満・若者・スピード重視)」に分け、戦略を切った- セグメントの切り口は4つ:地理的・人口統計・心理的・行動– ABテスト(鏡よ鏡)で「何が刺さるか」を検証する。1要素だけ変えて、結果の良いほうを選ぶ- 直感は外れる。自分の判断ではなく、テスト結果を信じて磨く
顧客の声を活かすとは、全体をぼんやり眺めることではなく、「誰が何を求めているか」をセグメントで切り分け、ABテストで仮説を検証することです。あなたの事業でも、顧客を一括りにせず、フィードバックを得て改善する仕組みを作ってみてください。
これはマーケティング8つのテーマの5つ目(フィードバック)です。残るテーマ——トレードオフ、データとAI、プラットフォーム——も順に見ていきます。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
