結論から言います。オペレーションの一番のチャレンジは、「需要と供給を合わせる」ことです。 どれだけ作って、どれだけ売れるか。この2つをぴったり合わせられる会社が、在庫のムダを消し、付加価値を生み、業界の王者になります。ザラ、ウォルマート、トヨタ——アパレル・小売・製造、業種はバラバラですが、3社に共通するのは「オペレーションで付加価値を作った」ことです。
そもそもオペレーションとは何か。仕入れ → 製造・設計 → 出荷・販売、この一連の流れのことです。調べると専門用語が山ほど出てきますが、つまるところ、ここで付加価値をどう生むか。今回は、それを体現する3社のケースで学びます。覚え方は OPQRST。Operation・Quick response(ザラ)・Supply chain(ウォルマート)・Toyota。この語呂で「オペレーションは最適化せよ」と覚えてください。
ケース1:ザラ ── クイックレスポンスで「ニーズ」を最適化
ザラはスペインのインディテックスが展開するアパレルで、売上は約2.6兆円。H&M(約2.3兆円)、ユニクロのファーストリテイリング(約2兆円)を上回る世界最大級のブランドです(※時価総額ではファーストリテイリングが2021年にアパレル世界首位になりましたが、売上はインディテックスが上)。
ザラの武器がクイックレスポンス。その仕組みはこうです。
– 欧州の自社工場で計画生産し、最短2週間で商品を作れる– 発注から48時間で世界中の店舗に商品が届く(空輸)- 作り増しはしない(売り切りごめん)。一度逃すと、次の来店時にはもうない
では、これで何の付加価値が生まれるのか。ポイントは意外なところにあります。ザラは「店舗で売れた数」より「店舗で売れていない商品」を重視するのです。
世界中の店長が顧客の声を集めます。「もう少し薄い色はないの?」とフィッティングで言われた、という声。これを吸い上げ、需要があると判断したら作る。在庫を持たないからこそ生産調整ができ、2週間で作って2日で空輸するので、次に来店したときには「薄い色」が並んでいる、ということが起こる。トレンドがどちらに転んでも即対応できる。
つまりザラのクイックレスポンスが生む価値は、顧客ニーズへのレスポンスの最適化です。生産自体は自動化(3次元CADで裁断)してコストを下げつつ、作り置きはしない。布の在庫は大量に持ち、デザインで勝負する。売れ残りのコストが消えるぶん、空輸の割高さを補って余りある。現代のSNSマーケティングのABテストにも通じる発想を、アパレルで昔からやっていたわけです。
ケース2:ウォルマート ── サプライチェーンで「物流」を最適化
ウォルマートは小売で世界一、売上約52兆円(アマゾンの小売は約14兆円)。その強さは圧倒的な物流にあります。自社物流倉庫からの配送が85%(競合は約60%)、在庫補充は2日(競合は5日)、輸送コストは商品の3%(競合は5%)。
仕組みの核がクロスドッキングシステムです。赤い工場の商品、黄色い工場の商品、紫の農家の商品が、それぞれのトラックでウォルマートの倉庫に届く。普通ならここで保管しますが、ウォルマートは即座に積み替えて、すぐ店舗へ発進させる。つまり——
> ウォルマートの在庫は、倉庫ではなくトラックの中にある。
全米を在庫が走り続けている。トラックのGPSを把握し、最適なアルゴリズムで管理することで、アメリカ全土に2日で在庫を切らさず供給できる。
さらにVMI(ベンダー・マネージド・インベントリー)。各店舗で「いつ・どの店で・何が売れたか」のデータを、製造元の工場と共有しています。だから店舗で照明が売れた瞬間、照明工場がそれを知り、いつ作っていつ納入するかを工場側が管理する。ウォルマートが発注するのではなく、サプライヤー自身が補充するのです。RFID(電波タグ)で何がどこにあるか、どの客がどんなルートで買ったかまで把握する(「おむつの隣にビールを置くと両方売れる」という有名な逸話もここから)。
ウォルマートのオペレーションが生む価値は、物流の最適化。在庫・輸送・人件費を削り、エブリデイ・ロープライスを実現しています。
ウォルマート対アマゾンのラストワンマイル競争は、DXの記事でも現代の視点から解説しています。
ケース3:トヨタ ── トヨタ生産方式で「生産」を最適化
最後はトヨタ。「カイゼン(改善)」は英語にもなった言葉で、無理・ムラ・ムダをなくす取り組みの総称です。その中身を見ていきましょう。
看板(かんばん)方式 ── 従来は「車が売れる → 何台作れと指示 → 材料調達 → 加工 → 組立 → 在庫 → 販売」という流れでした。作りすぎればムダになり、一工程が遅れれば全体が止まる。トヨタはこれを逆向きにした。出荷された分だけ「組立をお願い」と看板(送り状のようなもの)が回る。組立で減った分だけ「加工して」と看板が回る。加工で減った分だけ「材料ちょうだい」と回る。後ろから前へ、必要な分だけ引っ張る。これで製造工数と納期が明確になり、在庫が最小化します。
平準化 ── 生産の波(ピーク)を平坦にする。忙しい時と暇な時の差をなくし、受注や計画で量を平らにする(量の平準化)。また、黄色い車を2台・赤を2台…とまとめて作るより、受注順に1台ずつ作る方が効率がいい(一個流し=種類の平準化)。
多能工 ── 一人の作業員が複数の工程をこなせる。組立もエンジンもギア加工もできれば、忙しい工程に応援に行ける。
自動化(にんべんの付いた自働化)とアンドン ── トヨタの「自働化」は、ただ動く機械ではなく、異常があったら自分で止まって警告を出す機械のこと。不良品ができたらラインが止まる。そしてアンドン(行灯)は、その異常をランプで見える化する仕組み。正常か異常かが、目で見て瞬時にわかります。
トヨタが生むのは、生産の最適化です。
トヨタ生産方式は、あらゆる仕事に応用できる
ここが今回いちばん実用的なところです。トヨタ生産方式は製造業だけのものではありません。僕自身、自分の会社でこう応用しています。
– 多能工化 ── 営業事務のメンバーが、どの営業のサポートにも入れるよう全業務をこなせるようにした。誰かが休んでもすぐバックアップでき、組織が安定する(ワークシェア)- 平準化 ── 工場の出荷テストを前もって計画し、1週間先の分まで用意しておく。おかげで昔は多かった残業が今はゼロになった(=コスト削減)- アンドン(見える化) ── 経営の財務指標(レシオ)を読む会議で、おかしな数字が出たらセルの色が変わる仕組みにしている。見落とさないよう「異常が瞬時にわかる」状態を作る。たとえば「残業が100時間を超えたら社長に自動でメールが飛ぶ」といった仕組みも、立派なアンドンです
平準化で仕事のピークを下げる、多能工で一人何役もこなす、アンドンで異常を見える化する——これらは営業でも、Web制作でも、会社経営でも効きます。
在庫の回転は、手元資金の循環(CCC)に直結します。フリーキャッシュフローの記事へ。
まとめ
今回のオペレーションを整理します。
– オペレーションの本質は需要と供給を合わせること- ザラ(クイックレスポンス) ── 在庫を持たず2週間で作り48時間で配送。「売れていない商品」の声を拾い、顧客ニーズへのレスポンスを最適化- ウォルマート(サプライチェーン) ── 在庫はトラックの中。クロスドッキングとVMIで物流を最適化- トヨタ(トヨタ生産方式) ── 看板・平準化・一個流し・多能工・自働化・アンドンで生産を最適化- 覚え方はOPQRST(Operation・Quick response・Supply chain・Toyota)- トヨタ生産方式は製造業以外にも応用できる(多能工・平準化・見える化)
3社に共通するのは、在庫やムダを最小化し、需要と供給をぴたりと合わせることで付加価値を生んでいる点です。あなたの仕事でも、「どこにムラ・ムダがあるか」「異常を見える化できているか」を問うてみてください。オペレーションの最適化は、製造ラインだけでなく、机の上の仕事にも宿ります。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のオペレーションマネジメント講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
