実務・現代ビジネス

営業は「売上の数字」だけ見てはいけない ── セールスファネルとCAC/LTV

結論から言います。営業を「今月いくら売れたか」という数字だけで管理すると、大事なものを見落とします。 売上の数字は結果にすぎません。その手前で、どれだけ活動し、どこで詰まっているのか——営業を「見える化」してこそ、売上は予測でき、組織は伸びていきます。今回は、僕がアジア太平洋地域(日本・韓国・中国・台湾・インド・豪州)の営業を統括していたときに実際に使っていた手法を、まるごとお伝えします。

セールスマネジメントとは:予算と実績、そして中身

セールスマネジメントとは、営業活動を様々な角度から分析して、売上を予測し、予算を達成し、活動を見える化することです。予算と実績の差(予実)を管理するのは基本ですが、陥りやすいのが「売上の数字だけにとらわれる」こと。「今月3億売れた」で満足してはいけない。数字の中身を見ていく必要があります。その手法を見ていきましょう。

道具1:セールスファネル(じょうご)

最初の道具が「セールスファネル」。ファネルとは英語で「じょうご(ロート)」のこと。営業活動をフェーズで分類し、じょうごの形で管理します。利点は、ボトルネック(詰まっている場所)が把握しやすいこと。営業活動はほぼこのモデルで管理できます。

フェーズはこう進みます。分析(ファーストコンタクト)→見積もり→交渉→受注 or 失注。ポイントは、これが一方通行だということ。見積もりを出してから分析に戻ることはなく、前へ前へと進む。だから、ある期間にどのフェーズからどのフェーズへ進んだかを追えば、活動の実態が見えます。

このファネルは、応用が効きます。

新規 vs 既存で色分け ── 新規客をピンク、既存客を青で表すと、新規がどれだけ動いているか、既存リピートがどれだけ回っているかが見える。「うちは新規がゼロだ→成長には新規が要る」といった気づきが得られます。

ポイント制で競わせる ── フェーズが進むたびにポイントを付ける(分析→見積もりで何点、交渉→受注で何点)。すると面白いことが起こります。ベテランAさんはファネルが小さくても、猛烈に回していればポイント1位になりうる。案件を多く抱える中堅Bさんも、動きが遅ければポイントは伸びない。売上額だけ見ていては見えない「活動量」が見えるのです。そして営業同士が「Aさん、めっちゃ動いてるな」と競い始める。これが組織を活性化させます。

道具2:CAC < LTV ── 儲かる仕組みをデザインする

次に、広告宣伝にいくらかけられるかを判断する2つの指標です。

CAC(顧客獲得コスト) ── Customer Acquisition Cost。マーケティングと営業にかかったコスト ÷ 獲得した顧客数。1人のお客を得るのにいくらかかったか。

LTV(顧客生涯価値) ── Life Time Value。顧客の購入単価 × 購入頻度 × 継続期間。1人のお客が生涯でいくら生むか。

そして、ビジネスは必ず次の形にデザインしなければなりません。

CAC < LTV(1人を獲得するコスト < その人が生涯生む価値)

これが成り立っていれば、やればやるほど儲かる。逆に、ここが崩れていると、いくら広告を打っても赤字が膨らむだけ。新しいビジネスを作るときは、LTVがCACより大きくなる設計を、まず確認する。これは大前提です。

道具3:見える化 ── CRM・トレンド・統計

営業は、とにかく見える化が大事です。いくつか手法を挙げます。

CRM(顧客管理ツール)で活動を見える化 ── 各営業が1か月で、電話・メール・会議・準備に、それぞれどれだけ時間を使っているかをモニタリングする。すると、誰がどう効率よく動いているかが見える。「ベテランAさんはなぜこんなに効率がいいのか」と、互いに学び合いが生まれます(ただし「件数が少ない、何やってる」と詰めるとマイクロマネジメントになるので注意)。

トレンド分析で売上を予測 ── 取引先ごとに、業績が右肩上がり(A社)、横ばい(B社)、下降(C社)とトレンドを読む。これで予算が立てられます。さらに僕は、ここに統計を重ねます。トレンドが良ければ強気の数字でも信頼区間に収まるか、営業が強気すぎる数字を出していないか——統計で自動検証する。100社・1000社になると人手では無理なので、自動化しておくと、鉛筆を舐めて出すより正確な予測ができます。

受注残と売上の相関を見る ── 製品には納品までのリードタイムがあります(受注から納品まで1か月、時に1年)。だから、まず受注が増え、遅れて売上が増える。多くの人は売上ばかり見ますが、先に動くのは受注(受注残)。営業がコントロールできるのは「いつ売上が立つか」ではなく「どれだけ受注するか」。だからセールスマネジメントは、売上ではなく受注で見るのが基本です。

トレンドを数字で検証する見える化は、統計の基礎の記事が土台になります。

失注こそ分析する ── 戦闘機の話

最後に、強く心に留めてほしい話を。第二次大戦中のアメリカで、帰還した戦闘機を分析して改善していました。でも、これは間違いでした。なぜか。

帰ってきた機は、撃たれても生き残れた=致命的でない場所をやられた機です。本当に分析すべきは、帰ってこなかった(撃墜された)機。そこにこそ、致命的な弱点があるからです。

営業も同じ。受注(勝った案件)ばかり見て満足しがちですが、本当に学ぶべきは失注(負けた案件)です。「どの競合に、なぜ負けたのか」を必ず聞く。目を向けたくない失注の中にこそ、次に勝つためのヒントがある。受注したときは「どこが決め手だったか」を、失注したときは「誰に、なぜ負けたか」を確認する。これを繰り返して改善していきます。

誰に売るかを正しく見極めるには、顧客セグメントの記事もどうぞ。

まとめ

セールスマネジメントを整理します。

– 営業は売上の数字だけで見ず、中身(活動量・プロセス)を見える化する- セールスファネル(じょうご)でフェーズを管理し、ボトルネックを把握。新規/既存の色分け、ポイント制で競わせる- CAC < LTV(獲得コスト < 生涯価値)になるよう、ビジネスをデザインする- CRM・トレンド分析・統計検証で見える化。売上でなく受注(受注残)で見るのが基本- 失注こそ分析する(帰ってこなかった戦闘機を見よ)。負けた理由に次の勝ち筋がある

営業の見える化は、単なる管理のためではありません。全員が簡単な指標(ポイントなど)で競い合えるようにすると、組織は自分から動き出す——リーダーシップで学んだ「自走する組織」にもつながります。まずは、自分の営業活動を「売上」ではなく「活動と受注」で見える化することから始めてみてください。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のセールスマネジメント講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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