ファイナンス

経営者が最初に読む数字 ── 財務レシオでわかる会社の健康状態

結論から言います。もしあなたが明日CEOになったら、最初にやることは「財務分析」です。 会社が今までどんな業績だったかを把握し、これからの戦略を決める。その土台になるのが財務諸表を読むことであり、読むための道具が「レシオ(比率)」です。

レシオと聞くと「なんだか苦手」「小文字の略語ばかりでよくわからない」と感じる人が多いのですが、中身がわかればまったく難しくありません。むしろ、世界中の経営者が使う共通言語です。僕がハーバード・ビジネススクールでルームメイトと事業分析をするときも、みんな社長ですから「ここちょっとレシオ低くない?」という会話が普通に飛び交います。逆に言えば、レシオが読めないと話が通じない。今回は、その共通言語を計算例つきで身につけましょう。

ちなみに、僕が実際に自分の会社の経営で見ているレシオは全部で58個あります。今日はそのうち、特に大事なものから見ていきます。

財務分析には3つの視点がある

財務分析(ファイナンシャル・アナリシス)で見るのは、大きく3つです。

– 収益性 ── きちんと儲かっているか- 安全性 ── 支払い能力は大丈夫か、潰れないか- 効率 ── 資産やお金をムダなく回せているか

この3つを、それぞれ専用のレシオで見ていきます。そして今回いちばんのポイントは、業種によって財務構成はある程度決まってくるということ。同じレシオでも、レストランとソフトウェアでは数字がまるで違う。その「違いの理由」がわかると、数字から業種や経営の実態が透けて見えるようになります。

実際の講義では業種当てクイズを5問やりました。この記事でも、その演習をそのまま体験してもらいます。考えながら読んでみてください。

レシオを読む前提として、財務三表の記事を押さえておくと理解が速くなります。

視点1:収益性 ── グロスマージンとネットマージン

収益性でまず見るのがグロスマージン(粗利率)です。粗利 ÷ 売上で計算します。100万円のものを売って、どれだけ粗利が出るか。これは製品と製品原価で決まります。 原価が安ければグロスマージンは高くなる。当たり前ですね。

もう一つがネットプロフィットマージン(利益率)。最終的な利益 ÷ 売上で、こちらは事業全体の効率で決まります。営業の現場で「グロスマージンいくら?」と聞かれて「わかりません」では通用しないので、両方とも基本として押さえてください。

参考までに、Appleのグロスマージンは約38%。iPhoneを中心としたハードのビジネスでこれだけ出るのは、かなり高い水準です。

【演習1】 グロスマージンが「A=94%」「B=18%」の2社があります。一方はレストラン、もう一方はソフトウェアです。どちらがどちらでしょう?

…答えは、ソフトウェアが94%、レストランが18%です。理由はシンプル。ソフトウェアの原価はほぼゼロ(CDすら使わない時代です)。一方レストランは食材を仕入れ、店舗を構える。原価(コスト・オブ・グッズ・ソールド)がかかるぶん、グロスマージンは低くなる。製品原価で決まる、という原則どおりです。

視点1の続き:ROAとROE ── 似て非なる2つ

収益性でもう一段大事なのが、ROAとROEです。混同しやすいので、ここで整理します。

ROA(リターン・オン・アセット) = 当期純利益 ÷ 資産。バランスシートの左側(資産)に対して、どれだけ利益を生んだか。「リターン ÷ アセット」と読み下せば迷いません。

ROE(リターン・オン・エクイティ) = 当期純利益 ÷ 自己資本。バランスシートの右下(資本)に対して、どれだけ利益を生んだか。

ROAは資産の大きさで決まります。だから設備投資が大きい業種ほどROAは低くなる。 固定資産が分母で膨らむからです。

【演習2】 ROAが「12%」と「3%」の2社。一方は製薬メーカー、もう一方は電力会社です。どちらがどちら?

…答えは、製薬メーカーが12%、電力会社が3%。電力会社は発電所や送電網など設備投資が桁違いに大きい。だからROAは低く出る。設備投資が大きい=ROAが低い、の原則どおりです。

ROEが高い会社は、何をしているのか

ここで鋭い問いがあります。「ROEの大小に、戦略の違いはあるのか?」

答えは興味深いものです。ROEとROAの差が大きい会社は、たくさん借り入れをしています。

考えてみてください。たとえば自己資本10万円で会社を作り、1億円を借りられて1,000万円の利益を上げたら、ROEはとんでもなく高くなります。少ない資本(エクイティ)で大きな利益を生んでいる=レバレッジが効いている、ということ。

つまりROEが高い会社は、戦略が優れているというより、負債を多く使ってレバレッジをかけていることが多い。投資効率の面では、エクイティが少なくデットが多いほうが効率がいい。ROEが低ければ「もっと借り入れてレバレッジをかけたら?」という話にもなります。

この「資本と負債のバランス」こそ、ファイナンスのコアです。実は、ここを突き詰めると前に扱ったMM理論(負債を持つ会社のほうが企業価値が高い)やWACCの話に直結します。財務分析は、ファイナンスへの入り口でもあるわけです。

視点2:安全性 ── カレントレシオ(流動比率)

次は安全性、つまり「潰れないか」です。支払い能力を英語でソルベンシーと言い、これを見る代表がカレントレシオ(流動比率)です。

> カレントレシオ = 流動資産 ÷ 流動負債

1年以内に支払う流動負債を、1年以内に現金化できる流動資産でどれだけ賄えるか。1〜2が好ましいとされ(トゥー・トゥー・ワン・レシオとも呼ばれます)、1未満だと1年以内に資金繰りが詰まる可能性が出てきます。2なら2年分の支払い余力がある、という読み方です。

ただし、低いから即危険とは限りません。毎日キャッシュが入ってくる業態は、手元に現金を厚く持つ必要がないからです。だから業種で水準が変わる。

【演習3】 カレントレシオが「A=154%」「B=45%」の2社。一方はエアライン、もう一方は電機メーカーです。どちらがどちら?

…答えは、電機メーカーが154%、エアラインが45%。エアラインは航空券を先に売る(先に現金を回収する)ので、手元に現金を厚く持たなくても回る。一方、電機メーカーは支払いも多く、手元資金を厚めに持つ傾向がある。だからエアラインのカレントレシオは低めでも問題ない、というわけです。

(余談ですが、コロナ下でも大手のカレントレシオがあまり動いていない例があります。これは長期借入を増やして現金を積み増し、比率をキープしているから。数字の裏でそういうコントロールをしているのも読み取れます。)

視点3:効率 ── 在庫回転率(インベントリー・ターンオーバー)

最後は効率です。代表が在庫回転率(インベントリー・ターンオーバー)

> 在庫回転率 = 原価 ÷ 在庫

一定期間に在庫が何回入れ替わったか(何回転したか)を見ます。回転数が高いほど、少ない在庫で効率よく売っている。たとえばAppleは約41回転。365日 ÷ 41 ≒ 9日分しか在庫を持たない計算で、驚異的な効率です。外資系の社長同士でも「うち6ぐらいかな」「お、いいね」といった会話に出てくる、実用的な指標です。

【演習4】 在庫回転率が「A=155」「B=2.4」の2社。一方はレストラン、もう一方は製薬メーカーです。どちらがどちら?

…答えは、レストランが155、製薬メーカーが2.4。レストランは生鮮食品を扱うので、在庫は2日分ほどしか持てない(365 ÷ 155 ≒ 2.4日)。だから猛烈に回転する。一方、薬は生鮮品に比べて日持ちするので、大量に在庫しても2.4回転で済む。回転率は「高い=回転が速い」と覚えておくと、ここで間違えません(つい逆にしがちです)。

このほか効率の指標として、売上債権回転日数(DSO、Days Sales Outstanding=売掛金を回収するまでの日数)などもありますが、まずはこの3視点・主要レシオを押さえれば十分です。

健康診断の次は、手元に残る現金の話です。フリーキャッシュフローの記事へ。

まとめ ── レシオは「会社の健康診断」

今回の財務分析を整理します。

– CEOが最初にやるのは財務分析。見る視点は収益性・安全性・効率の3つ- 収益性:グロスマージン(原価で決まる)、ネットマージン、ROA(設備投資が大きいと低い)、ROE(高い会社はレバレッジが効いている)- 安全性:カレントレシオ(1〜2が目安。ただし業態で水準が変わる)- 効率:在庫回転率(高い=回転が速い)、DSO- 同じレシオでも業種で数字がまるで違う。その理由を理解すると、数字から経営が見える

レシオは、いわば会社の健康診断です。一つひとつの数字の意味がわかると、決算書がただの数字の羅列ではなく、その会社の体質や戦略を語るカルテに見えてきます。そして気づいたと思いますが、ROEのレバレッジの話のように、財務分析はそのままファイナンス(企業価値やWACC)へとつながっています。

次は、この分析を一歩進めて、会社を「コントロール」する側の話に入ります。最後に手元に残る本当のお金「フリーキャッシュフロー」を、どう生み、どう管理するか。これが経営の安全性と企業価値を同時に高める鍵になります。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」の財務分析講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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