マーケティング

ニッチが主役になる時代 ── アマゾンに学ぶプラットフォームとロングテール

結論から言います。プラットフォームの登場で、これまで埋もれていた「ニッチ(すき間)」な商品が、ビジネスのチャンスになりました。 大ヒット商品だけが儲かる時代から、小さな需要の積み重ねが大きな市場になる時代へ。この変化を「ロングテール」と呼びます。マーケティング講義の最終回、アマゾンを題材に、プラットフォーム時代の戦い方を学びます。

アマゾンの差別化:世界一の顧客志向

まず、アマゾンが何で差別化しているかを押さえましょう。創業者ジェフ・ベゾスが掲げたミッションは「世界一、顧客志向(カスタマー・セントリック)の会社になる」こと。その差別化は3つです。

– より多い選択肢(セレクション) ── 圧倒的な品揃え- 低価格(ロープライス) ── オンラインモデルの低コスト構造を活かす- 速くて信頼できる配送 ── ファスト・コンビニエント・デリバリー

この「選択肢・低価格・速い配送」は、ベゾスが創業時に紙ナプキンに描いたバリューループ(回せば回すほど成長する仕組み)にもつながっています。プラットフォームが大きくなるほど商品が売れ、安く提供でき、顧客価値が増す。すべてが「顧客志向」に紐づいています。

マーケットの形が変わった ── ロングテールの誕生

ここからが本題です。プラットフォームは、市場の「形」そのものを変えました。

昔の市場をイメージしてください。トヨタ(大衆向け・シェア大)とフェラーリ(高級・シェア小)のように、少数の大ヒット商品(トップ)に需要が集中し、ニッチな商品はわずかなシェアしかなかった。グラフにすると、左が高く、右に向かって急に落ちる曲線です。

ところが、アマゾンのようなプラットフォームが登場して、この曲線が横になだらかに伸びました。なぜか。選択肢が増え、検索で見つけられるようになったから。これまで存在を知られなかったマニアックな商品も、「検索したらこっちのほうが良い」と見つけてもらえる。結果、ニッチな製品やブランドのシェアが増えたのです。

この、恐竜の尻尾(テール)がにょっと長く伸びたような形を、ロングテールと呼びます(テール=尻尾)。トップのシェアは少し下がり、ニッチのシェアが上がった。つまり——ニッチな製品や新規参入に、チャンスが広がったのです。

例:地ビールはなぜブームになったか

ロングテールの好例が、地ビールです。

かつて地方に行くと、土産に地ビールを買う人が増えました。でも、これは「軽井沢ビール」という個別ブランドが有名になったわけではない。「地ビール」という言葉そのものがブランドになり、「土産に地ビールを買おう」という需要が生まれた。これが中間セグメントという発想です。

「ビール(大きな製品カテゴリー)」と「軽井沢ビール(個別の尖った商品)」の間に、「地ビール」という中間のセグメントを作る。ニッチを束ねた新しいブランドを立てるわけです。プラットフォーム時代には、この中間セグメントを作ってニッチを束ねることに、商機があります。

(自社で考えるなら、たとえば「ビジネス研修」と「あるオンライン講座」の間に、「忙しい経営者向けの短期集中研修」のような中間セグメントを作る、という発想です。)

差別化とプラットフォームは矛盾しないのか

ここで疑問が湧きます。「製品を尖らせる(差別化)」のと「プラットフォーム化する」のは、矛盾しないのか? 一見、尖らせて狭くするのと、広げてプラットフォームにするのは逆方向に見えます。

答えはこうです。製品は差別化で尖らせる。でも、その尖った製品を、似た顧客層を持つ他のものと組み合わせて、中間セグメントのプラットフォームにする。 たとえば「オンラインMBA講義」という尖った製品単体ではブランド化しにくいので、似た層が求める他の研修と束ねて、新しいセグメント(プラットフォーム)を作る。製品の強み(差別化)は保ちつつ、それを束ねる場(プラットフォーム)を作る——両立できるのです。

消費者のニーズは時代とともに変わる:4つのトレンド

最後に、忘れてはならない前提があります。消費者が求めるものは、時代とともに変化するということ。プラットフォームが生活を変えたように、ニーズは動き続けます。今の顧客トレンドは、大きく4つです。

– オムニチャネル ── リアルもネットも、あらゆる手段で購買できる- 時短 ── 手間を省く- 事業の社会性・透明性 ── 環境やガバナンスへの配慮(これから創業する人は、最初から組み込むべき)- パーソナライズ/カスタマイズ ── 一人ひとりに合わせる

この潮流を掴んで、自分のビジネスを近づけていくことが大切です。

4つのトレンドのうち「社会性・透明性」は、SX(サステナビリティ)の記事で深掘りしています。

マーケティングは「ぐるぐる回す」 ── 8回の総まとめ

これで、マーケティング8つのテーマがすべて出そろいました。最後に一望します。

1. タイミング(ナイキ) ── 潮流を読む2. ブランド(スウォッチ) ── 明確なメッセージを作る3. 競合関係(P&G) ── 生態系として育てる4. 差別化(Fitbit) ── 狭く深く刺す(スピアアプローチ)5. フィードバック(スターバックス) ── セグメントとABテストで磨く6. トレードオフ(IKEA) ── ネガティブから発想する7. データとAI(Stitch Fix) ── AI×人でビジネスモデルを作る8. プラットフォーム(アマゾン) ── ロングテールとニッチで栄える

大事なのは、8で終わりにしないこと。8まで来たら、また1(タイミング)に戻る。今の潮流は何か、ブランドメッセージは更新すべきか——とぐるぐる回し続ける。消費者のニーズは変わり続けるから、マーケティングは終わりなき旅なのです。一周するたびに、事業が時代に合わせて磨かれていきます。

ここまでの8回は、マーケティングの全体像に戻ると一枚の地図として見渡せます。

まとめ

プラットフォームとロングテールを整理します。

– アマゾンの差別化は「世界一の顧客志向」=選択肢・低価格・速い配送- プラットフォームの登場で市場はロングテール化。検索でニッチが見つかり、ニッチのシェアが増えた- ニッチを束ねる中間セグメント(地ビールが好例)に商機がある- 差別化(製品を尖らせる)とプラットフォーム化(束ねる)は両立できる- 顧客トレンドはオムニチャネル・時短・社会性と透明性・パーソナライズの4つ- マーケティング8テーマは一度で終わらずぐるぐる回す。終わりなき旅

ニッチは、もはや「すき間の小さな市場」ではありません。検索とプラットフォームの時代には、ニッチの集まりこそが大きなチャンスです。あなたの事業にも、束ねられるニッチや、作れる中間セグメントがないか、探してみてください。

そして、これでマーケティングの8つのテーマは一周しました。ぜひ最初の「タイミング」に戻って、自分の事業を何度も回してみてください。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義(全8回)の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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