結論から言います。マーケティングで最初に習うのは、「時代の流れ(潮流)を読む」ことです。 どれだけ良い技術や製品を持っていても、時代の波に乗らなければ売れない。逆に言えば、潮流を読めれば、同じ製品が爆発的に売れる。英語では “Timing is everything”(タイミングがすべて)と言います。
そもそもマーケティングの目的は、人の行動を変えることです。リーダーシップが社内(組織)の人の行動を変えるのに対し、マーケティングは社外(顧客)の行動を変える。今回は、その第一歩である「タイミング」を、ナイキのケースで学びます。商品やサービスを作るすべての人に効く、普遍的な話です。
ナイキの売上が急に伸びた理由
ナイキは1985年あたりから、売上が急激に伸びました。なぜか。
きっかけは、自社の売上構成の変化を読んだことです。1978年にはランニングとバスケットがナイキの売上の80%を占めていました。ところが1985年には、その割合が40%に減り、代わりにアパレルとフィットネスが増えていた。ナイキはこの変化をこう捉えました——「スポーツ用品が、ファッションアイテムとして認知されるようになっている」と。
そこでナイキは、機能性だけでなくデザイン性の高い製品を投入します。それがエアジョーダン。1972年の最初のバスケットシューズは白くて何の変哲もないものでしたが、1985年のエアジョーダン1は黒と赤の派手なデザインでした。発売3か月で70億円を売り上げる大ヒット。あまりに派手でNBAが着用を禁止したものの、ナイキは罰金を払い続けてジョーダンに履かせ続けた(「NBAは止めても、あなたは止められない」というCMにつながります)。それほどセンセーショナルな出来事でした。
技術ができたタイミングと、売れるタイミングは違う
ここがこの回のいちばん大事な学びです。
エアジョーダンやエアマックスに使われた「エアソール」(靴底に空気を入れてクッション性を出す技術)。これが大ヒットしたエアマックス1の発売は1987年です。ところが——エアソールの技術自体は、1979年にできていた。
つまり、技術ができてから爆発的に売れるまで、8年かかっている。普通の商品開発で「8年後に売れますよ」と言われたら、ずいぶん長く感じますよね。でも現実にそうだった。技術ができたタイミングと、それが売れるタイミングは違うのです。良いものを作れば即売れる、ではない。潮流(スポーツ用品がファッションになるという流れ)と噛み合ったとき、はじめて爆発する。
Appleの株価が教えること
もう一つ、株価の例で考えてみましょう。
iPhoneのリリースは2007年1月。そのときのAppleの株価は13.52ドルでした。発売日(2007年6月)で17.78ドル。それが2020年6月には321.43ドル。13年で約20倍(年率25%増)です。
もし2007年の時点で「Appleがこれだけ利益を出す」と分かっていたら、誰もが株を買って20倍にしていたはず。「いや、そんなのわからないじゃないか」と言うでしょう。確かに。でも——本当にわからなかったのでしょうか? 潮流を読む目があれば、見えたかもしれない。ここがマーケティングの核心です。
「惜しかった」製品たち ── 技術はあったのに
実は、iPhoneにつながる技術は、もっと前から日本にありました。潮流を捉えられず、惜しくも売れなかった例を見てみましょう。
– ソニーの音楽付き携帯(2000年) ── 携帯電話とウォークマンを合体させた端末。iPhoneの7年前にあった- ソニーのPSP(2004年) ── ゲームも電話も音楽もできる端末を合体させれば、ほぼiPhone。技術は持っていた- 任天堂バーチャルボーイ(1995年) ── 今のVRゴーグルのような立体映像機。25年以上前にあった- エポック社テレビテニス(1975年) ── 日本初の家庭用ゲーム機。ワイヤレス(電波出力)でもあった
どれも斬新で、技術的には先を行っていた。でも、時代がまだ追いついていなかったから売れなかった。技術の有無ではなく、潮流との噛み合わせが勝負を分けるのです。
補足:新しいものを作るときの「FBC」
潮流を読んで新しい製品・サービスを生み出すとき、考えやすくなるフレームワークがあります。クリステンセン教授の破壊的イノベーションから、FBC。Faster(より速く)・Better(より良く)・Cheaper(より安く)。新しいものを創造するときに、この3つの軸で「既存より何が優れているか」を考えると、整理しやすくなります。
このFBC(Faster・Better・Cheaper)の発想は、AIを使った最新のビジネスモデルにもそのまま生きています。詳しくはStitch FixのAI×人の戦略で。マーケティングの全体像は8つの問いに戻って確認できます。
まとめ
ナイキに学ぶタイミングを整理します。
– マーケティングで最初に習うのは潮流(時代の流れ)を読むこと。Timing is everything- ナイキは「スポーツ用品がファッションになる」流れを読み、デザイン性の高いエアジョーダンで急成長した- エアソール技術は1979年、売れたのは1987年。技術ができたタイミングと売れるタイミングは8年違った- Appleの株価は13年で約20倍。潮流を読む目があれば見えたかもしれない- ソニーや任天堂には先進技術があったが、時代が追いつかず売れなかった- 新しいものを作るときはFBC(Faster・Better・Cheaper)で考えると整理しやすい
良い製品を作ることと、それが売れることは、別の問題です。あなたの商品がなかなか売れないとしたら、品質ではなくタイミング(潮流との噛み合わせ)を疑ってみてください。逆に、潮流さえ読めれば、すでに持っているものが化けるかもしれません。
なお、この「タイミング」はマーケティング8つのテーマの1つ目です。次は、潮流に乗せる「ブランド」をどう作るか——スウォッチの「2つ目の時計を持とう」というメッセージを見ていきます。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
