リーダーシップ

「聞いているつもり」が信頼を壊す ── リーダーの「完全に聞く」技術

結論から言います。あなたが部下の話を聞いているとき、頭の中で「内面の声」が鳴り始めたら、その瞬間、もう聞いていません。 「この話、長いな」「で、結論は?」「また言い訳か」——こうした声が聞こえたら、相手の言葉は耳に入っていない。リーダーに必要なのは、ただ黙って聞くことではなく、相手に「この人は完全に聞いてくれた」という経験を残すこと。今回は、玉ねぎの2枚目の皮——「ヘッドホン」を外し、「完全に聞く」技術を学びます。

(前回のコンタクトレンズ=意味を作るレンズに続く、本来の自分になるための2枚目の皮です。)

2枚目の皮:本当のことが聞こえない「ヘッドホン」

私たちの耳には、見えないヘッドホンがついています。これには2つの機能があります。

ひとつは音声ガイド ── 相手が話している最中に、自分の頭の中で流れる「内面の声」。「俺、嫌われてるのかな」「この人、何が言いたいんだ」といった独り言です。もうひとつはノイズキャンセリング ── 都合の悪いことや、自分の考えに合わないことを、無意識に遮断してしまう機能。

この2つが働いている限り、相手の本当の言葉は聞こえません。上司が部下の話を聞いているつもりで、内面の声に気を取られていたら、それは「聞いていない」のと同じなのです。

主張したい衝動が、聞くことを妨げる

ハーバードのアブラハム・ザレズニク教授は、こう言っています。リーダーシップを教えることはできないが、リーダーになろうとする人は「心の状態」を体得できる、と。その心の状態とは、人の話を聞き、他人の視点を理解する能力から始まる。そして——「主張したいという衝動は、聞くという心の状態に反している」。

私たちは、つい言いたくなります。「いや、それはこうだろう」「こうすべきだ」と。でも、その主張したい衝動こそが、聞くことを妨げる。だからまず、その衝動を抑え、聞くことを一番にする。これがリーダーの心の状態です。

「完全に聞く」とは ── 同意でも理解でもない

ここで誤解しやすいのですが、「完全に聞く」とは、相手に同意することでも、相手の言うことを理解することでもありません。

理解は、相手の言っていることが妥当かを判断すること。でも、賛成できないこともある。自分が反対なのに無理に賛成すると、かえってスッキリしない。それは必要ないのです。完全に聞くとは、相手に「自分の話を、この人は完全に聞いてくれた」という経験を残すこと。同意しなくていい。ただ、聞ききる。

たとえば、相手が何かを描写したら、それを自分の体験として受け取る。「砂時計のような絵が見える」と相手が言えば、「それはどんな砂時計ですか? 何色ですか?」と、相手が見ている世界に入っていく。相手が存在する場所に、一緒に存在するように聞く。すると相手は「完全に聞いてもらった」と感じ、より深く、本音を話してくれるようになります。

なぜリーダーは完全に聞く必要があるのか

理由はシンプルです。人は、本当に言いたいことを、普段は言わないから。

リーダーが完全に聞いて、相手に「聞いてもらえた」経験を与えると、信頼関係が生まれ、コミュニケーションのチャンネルが開く。すると、隠していた本音が出てくる。逆に、こちらが相手の話を完全に聞かない限り、相手もこちらの話を完全には聞いてくれない。組織のコミュニケーションは不完全なままになる。だから、完全に聞くことが、組織のコミュニケーションの基盤なのです。

その前段にあたる1枚目の皮は、イライラの正体=コンタクトレンズの記事で解説しています。

厄介なのは「よく知っている相手」

意外かもしれませんが、コミュニケーションが難しいのは、初対面の人ではなく、家族や友人、長年の同僚です。なぜか。記憶(歴史)があるからです。

初対面の人には、そんなに腹が立たない。よく知らないから、内面の声も鳴りにくい。でも、家族や付き合いの長い人とは、「あの時もこうだった」「いつもこうだ」という記憶が、ヘッドホンをフル稼働させる。過去の記憶が、相手の今の言葉を上書きしてしまうのです。

ここに対処のヒントがあります。よく知っている相手の話を聞くとき、「もしこの人と今日、初めて会ったとしたら」と想像してみる。記憶(過去)をいったん断ち切って聞くと、相手の言葉が、今までとまったく違って聞こえてきます。脳の支配=記憶の支配から、少し自由になれるのです。

実践:相手に「完全に聞いてもらった」経験を残す

今日からできる実践です。明日、誰かと話すとき、相手に「完全に聞いてもらった」という経験を残すように聞いてみてください。

– 自分の内面の声が鳴り始めたら、「あ、今、内面の声がしているな」と認識する(認識するだけで、脳の支配から一歩抜けられる)- 主張したい衝動を抑え、聞くことを一番にする- 相手が描く世界に入り込み、自分の体験として聞く- 可能なら、最後に相手へ「今日、話してみてどうでしたか?」と聞いてみる

きっと、いつもより深く、親密に話してくれるはずです。

次の3枚目は「立場」の記事へ。

まとめ

リーダーの「完全に聞く」技術を整理します。

– 2枚目の皮=ヘッドホン(内面の声+ノイズキャンセリング)。これが本当の声を遮る- 主張したい衝動が、聞くことを妨げる。まず聞くことを一番にする- 完全に聞く=同意でも理解でもなく、相手に「完全に聞いてもらった」経験を残すこと- 人は本音を普段言わない。完全に聞くと信頼が生まれ、本音が出る=コミュニケーションの基盤- 難しいのはよく知っている相手(記憶が邪魔をする)。「初めて会った人」だと思って聞く- 実践:内面の声を認識し、相手の世界に入り込んで聞く

「聞いているつもり」は、リーダーがいちばん陥りやすい罠です。黙っていても、頭の中で内面の声が鳴っていれば、相手には伝わってしまう。まずは自分のヘッドホンに気づくことから。今日、誰か一人の話を、本当に完全に聞いてみてください。

これはオニオンリーダーシップの皮の2枚目です。次は3枚目——つい言ってしまう言葉の裏にある「立場」を理解する、チャットボットの皮を見ていきます。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のリーダーシップ講義と、著書『オニオンリーダーシップ』をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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