結論から言います。ブランドは、ロゴや知名度ではなく、「明確なメッセージ」から始まります。 そして、そのメッセージに5つの購買体験(製品・価格・販売チャネル・広告宣伝・ブランディング)を、すべて紐づける。これが揃ったとき、確固たるブランドが生まれます。今回は、潰れかけたスイスの時計産業を救ったスウォッチを中心に、ブランドの作り方を学びます。
スウォッチが生まれた背景 ── スイス時計の危機
まず時計の歴史から。1969年より前、世界の腕時計はスイス製のゼンマイ式が世界シェアの50%を占めていました。ところが1969年、日本のセイコーが安価なクォーツ式(水晶振動子で正確に時を刻む電池式)を開発。これが市場を席巻し、数年でスイス製腕時計の売上は半減してしまいます。
この危機に、ニコラス・ハイエックが「手頃な価格のスイス製プラスチック時計」という発想で立ち上がります。1983年、それがスウォッチとして実を結びました。世界中で大人気となり、スイスの時計産業を救うほど爆発的に売れた。その裏には、一貫したマーケティング戦略があったと言われています。それを分解していきましょう。
ブランドの作り方:明確なメッセージ + 5つの購買体験
ブランドを作るには、まず明確なメッセージを設定します。そして、そのメッセージに5つの購買体験を紐づける。5つとは:製品サービス・価格・販売チャネル・広告宣伝・ブランディング。この5つがメッセージと一本でつながったとき、ブランドが生まれます。
スウォッチのメッセージは「2つ目の時計を持とう」
では、スウォッチのメッセージとは何か。それは——「2つ目の時計を持とう」。
実は「スウォッチ(Swatch)」の “S” は、Second watch(2つ目の時計)の S なのです。「世界に誇るスイス製の腕時計を、手頃な価格で、おしゃれなアクセサリー感覚で、2つ目の時計として持とう」。これがメッセージ。時計を「1人1個の精密機器」から「服に合わせて選ぶファッションアイテム」に再定義したわけです。そして、5つの購買体験すべてが、このメッセージに紐づいていました。
製品サービス ── とにかくカラフル。2つ目だから遊び心がある。常に70ものデザインを生産し、人と被らない。服に合わせて選べるファッションアイテムにした。
価格 ── 世界共通価格で、日本では7,000円。セイコーやカシオのデジタル時計より高いが、ロレックスやオメガよりは断然安い。しかも10年間据え置き。世界中どこでも同じ値段という安心感(マクドナルドやスターバックスにも通じる)が、価格の信頼性を生んだ。
販売チャネル ── 一見、時計屋に見えないほどカラフルでポップな店舗。
広告宣伝 ── ビルに、建物まるごと覆うほどの巨大な時計の装置を貼りつけるド派手な宣伝。これでブランドイメージを一気に確立した。
ブランディング ── あえてメイド・イン・スイスにこだわった。当時スイスで作るのは高くつくのに、メイド・イン・チャイナにせず、「スイスの時計産業を救う」という思いでスイス製を貫いた。
すべてが「2つ目の時計を、おしゃれに、手頃に」という一つのメッセージに紐づいている。だからスウォッチは強いブランドになったのです。
他のブランドも、同じ構造でできている
この「明確なメッセージ + 5つの購買体験」は、あらゆる強いブランドに共通します。
ヨウジヤマモト ── メッセージは「黒は謙虚で傲慢だ」。当時パリコレでタブーだった黒を、あえて全面に使ってタブーを壊し、ブランドを作った。製品は99%黒い服、店舗もネットも白黒でシンプル、宣伝はパリコレにこだわる(コロナ禍でも日本ブランドで唯一出展)、ブランディングは山本耀司本人。すべてが「黒」というメッセージに紐づく。
アップル ── メッセージは「徹底したミニマリズム(必要なものだけ)」。Appleストアには棚もレジも電源コードもなく、製品と人しかいない。製品もボタンを削ぎ落とす(指紋認証ボタンすら顔認証で消した)。価格はやや高めでも、すべてが「必要なものだけ」に紐づく。
メッセージが明確で、5つの購買体験が一貫している。これが共通点です。
自分のブランドを点検する
逆に言えば、ブランドが弱いときは、たいてい次のどちらかです。①メッセージが曖昧、②メッセージはあるが、製品・価格・チャネル・宣伝・ブランディングのどれかがそれと矛盾している。たとえば「高級感」を謳いながら安売りチラシを撒けば、メッセージと価格・宣伝が食い違い、ブランドはぼやけます。
まず一言で言える明確なメッセージを決める。次に、5つの購買体験すべてがそれに紐づいているかを点検する。ズレているものがあれば、そこを直す。これがブランド作りの実践です。
明確なメッセージは、狭く深く刺す差別化とも地続きです。あわせて槍のように差別化する話、そしてマーケティングの全体像もどうぞ。
まとめ
ブランドの作り方を整理します。
– ブランドは明確なメッセージから始まり、それに5つの購買体験(製品・価格・販売チャネル・広告宣伝・ブランディング)を紐づける- スウォッチのメッセージは「2つ目の時計を持とう」(SはSecond watchのS)。カラフルな製品、世界共通価格10年据え置き、ビルの巨大広告、メイド・イン・スイス——すべてが紐づき、スイス時計産業を救った- ヨウジヤマモト(黒は謙虚で傲慢だ)、アップル(徹底したミニマリズム)も同じ構造- ブランドが弱いのは、メッセージが曖昧か、購買体験がメッセージと矛盾しているから
ブランドは、お金をかけた広告で作るものではなく、一貫したメッセージで作るものです。あなたの事業のメッセージを一言で言えますか? そして、製品から宣伝まで、それと矛盾していませんか? まずそこから点検してみてください。
これはマーケティング8つのテーマの2つ目(ブランド)です。残るテーマ——顧客フィードバック、トレードオフ、データとAI、プラットフォーム——も順に見ていきます。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
