結論から言います。顧客価値の創造は、ポジティブ(良い面)ではなく、ネガティブ(悪い面)から発想する。 これがIKEAのマーケティングの核心です。良いものをどんどん盛り込むのではなく、「ここは不便にする。その代わりここで価値を出す」と割り切る。一見おかしな発想ですが、これが強いブランドを作ります。今回はIKEAのケースから、トレードオフの考え方を学びます。
まずIKEAは「コスト戦略」の会社
前提として、IKEAはコスト戦略(安さで戦う)の会社です。それが事業のあらゆる活動(バリューチェーン)に一貫して表れています。
– 購買物流 ── 家具を徹底的にパッケージ化。きっちり四角い板状に緻密に詰めて、物流コストをとことん下げる- オペレーション ── テーマパークのようなあの店舗は、実は倉庫。客が自分で倉庫まで行って商品を選び、引き取ってくる- 出荷物流 ── 客が自分で持ち帰る(配送も頼めるが有料)。だから物流コストを大きく削れる
組み立ても自分、運ぶのも自分。一見すると「不便」です。でもそのおかげで、圧倒的に安い。ここにIKEAの発想の秘密があります。
IKEAがコスト戦略を貫ける理由は、優位性とバリューチェーンの記事を読むと腑に落ちます。
従来のマーケティングは「メリットを増やす」だった
ここで、これまでのマーケティングの常識を振り返ります。従来の考え方はこうでした——「顧客は決して満足しない」。だから、顧客が感じる価値を上げるには、メリットをどんどん増やすしかない。「これもあります、あれもできます」と機能を盛っていけば、顧客は価値を感じる、と考えられていた。
でも、IKEAの発想はまったく逆です。
IKEAの発想:顧客はトレードオフを「選ぶ」
IKEAはこう考えます。顧客は、トレードオフ(ポジティブとネガティブ)を自分で選択する。「自分で組み立てる手間はある(ネガティブ)。でも、その分とても安い(ポジティブ)。私はこれを選ぶ」と。
つまり、今の顧客は「なんでもかんでも良い」を求めているのではない。「いいところも悪いところもあるけど、私はこれを選ぶ」という選択をしている。だから、顧客に良い面と悪い面のトレードオフを提示し、自分に合ったものを選んでもらう。これが今のマーケティングの考え方です。
ここから導かれる今日の教訓が——顧客価値の創造は、ネガティブから発想せよ。
何でもメリットを盛るのではなく、「どこを不便にするか(ネガティブ)」をまず決める。IKEAなら「組み立ては自分、運ぶのも自分」と不便を引き受ける。その代わり「圧倒的な安さ」というポジティブを生む。ネガティブを起点に、価値の全体を設計するのです。
なぜ「捨てる」ことが強さになるのか
これは、全部を追わないという点で、戦略の世界の話とつながります。何でも良くしようとすると、コストがかさみ、メッセージもぼやけ、結局どっちつかずになる。逆に「ここは捨てる」と明確に決めると、捨てた分のリソースを、本当に大事な価値に集中できる。
IKEAは「手厚い配送・組み立てサービス」を捨てた。その代わり「安さ」に全振りした。だから、安さを求める客には強烈に刺さる。「全部入り」を狙わず、トレードオフをはっきりさせたからこそ、ブランドが際立つのです。
この「何を捨てるか」を可視化する道具が、戦略論で学ぶバリュープロポジションです。提供する価値を競合と並べて、「ここは価値を出す/ここは出さない」と取捨選択を明確にする。IKEAのトレードオフ発想は、まさにこれを顧客価値の側から実践したものと言えます。
自分の事業に当てはめる
あなたの商品やサービスは、「全部入り」を目指していませんか。便利さも、安さも、品質も、サービスも——と全部を追うと、コストばかり膨らみ、特徴が消えます。
そうではなく、まず「どこを不便にしてよいか(ネガティブ)」を考える。たとえば「対面サポートはなくす代わりに、料金を半額にする」「メニューを絞る代わりに、提供を速くする」。捨てる勇気を持ち、その分を本命の価値に集中させる。そして、そのトレードオフを顧客にはっきり提示して、選んでもらう。これがIKEA流です。
ちなみにIKEAは、文化の違いで海外市場につまずいた例もあります。クロスカルチャーの記事もどうぞ。
まとめ
トレードオフ発想を整理します。
– 顧客価値の創造は、ポジティブではなくネガティブから発想する– IKEAはコスト戦略。パッケージ化・店舗=倉庫・自分で持ち帰る、と「不便」を引き受けて安さを生む- 従来のマーケは「顧客は満足しない→メリットを増やす」。IKEAは逆で「顧客はトレードオフを自分で選ぶ」- 全部を追わず「何を捨てるか」を決めると、捨てた分を本命の価値に集中でき、ブランドが際立つ- 「どこを不便にしてよいか」から考え、トレードオフを顧客に提示して選んでもらう
良いものを足し算で増やすのではなく、引き算で削る。不便を引き受けることが、かえって強い価値になる。あなたの事業で「あえて捨てられるもの」は何か、考えてみてください。
これはマーケティング8つのテーマの6つ目(トレードオフ)です。残るテーマ——データとAI、プラットフォーム——も順に見ていきます。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
