経営戦略

強い会社の優位性はどこから来るか ── WTP・コスト戦略とバリューチェーン

結論から言います。同じ業界にいても、ずば抜けて儲かる会社と、そうでない会社があります。 同じエアラインでも、利益率がマイナスの会社もあれば、ライアンエアーのように14%も叩き出す会社もある。この差はどこから来るのか。それが今回のテーマ、「競争優位性」です。

前回、戦略には「魅力的な外部環境」と「競争優位性」の2つが要る、という話をしました。ファイブフォースで外部環境(業界の魅力)を見たので、今回はもう一つの内部——自社の強みを分析する道具を学びます。使うフレームワークは3つ。WTP・コスト戦略、バリューチェーン、バリュープロポジション。これを揃えると、自社の戦略がくっきり見えてきます。

道具1:WTP戦略 vs コスト戦略 ── まず「どっちで戦うか」を決める

最初に覚えてほしい言葉がWTP。Willingness To Pay、「お客が払ってもいいと思う額」のことです。戦略は、このWTPとコストの関係で2つに分かれます。

WTP戦略 ── 付加価値をつけて、お客が払ってもいい額(WTP)を上げる。その代わりコストも上がる。産業平均より価格もコストも高い。

コスト戦略 ── 産業平均より安い価格で売る。その代わりコストも徹底的に下げる。

そして、WTPとコストの差が「マージン(利益)」です。大事なのは、どちらか一方を選ぶこと。 両取りもまれにありますが、基本は付加価値を上げる(WTP)か、安く大量に売る(コスト)か、どちらかです。全部を追うと戦略は弱くなります。

コスト戦略を突き詰めた実例がIKEAのトレードオフの記事です。

道具2:バリューチェーン ── 「どこにコストをかけるか」を競合と比べる

戦略の軸を決めたら、次はバリューチェーン分析です。これは事業の活動(購買・製造・物流・マーケ・人事など)を連鎖として捉え、競合と自社のコスト構造を並べて比べるもの。1社だけ分析しても意味は薄く、競合と比較してこそ「どこで価値を生むべきか」「どこで負けているか」が見えます。これがハーバードで教える正しい使い方です。

ポイントは、バリューチェーンは「コストをカットするため」だけの道具ではないこと。わざとコストをかけて優位性を作っている場所を見つける道具でもあります。例で見ましょう。

ライアンエアー(コスト戦略) ── 格安航空。バリューチェーンの各活動が、すべて「コストを下げる」ためにつながっている。連鎖全体でコストを削り、マージンを生んでいます。

IKEA(コスト戦略) ── 家具を徹底的にパッケージ化(板状にきっちり詰める)して物流コストを下げる。店舗は実は倉庫で、客が自分で選んで運ぶ。出荷物流も「自分で持ち帰る」。各活動がコスト削減でつながっています。

スターバックス(WTP戦略) ── これは逆に、WTPを上げるためにわざとコストをかけている場所が3つあります。①店舗は直営(フランチャイズなし。フランチャイズのほうが安いのに、あえて直営)、②人事労務では店員の教育にお金をかけてフレンドリーな環境を作る、③オペレーションでは居心地の良い空間にコストをかける。コストを削るのではなく、あえてかけることで価値を生んでいるわけです。

道具3:バリュープロポジション ── 「何を捨てるか」を確認する

3つ目はバリュープロポジション。プロポジションは「提案」の意味で、お客にどんな価値を提案しているかを、競合と比べてマッピングします。

ここでいちばん大事なのは、全部を満たそうとしてはいけないということ。戦略とは「どこを捨てるか」を決めることです。

ライアンエアー ── 提供する価値は断然「価格」。最安値で、お金をかけたくない人に刺さる。逆に利便性・本数・移動時間・サービスといった価値は「取らない」。ここで価値を提供するけれど、こっちでは提供しない——この取捨選択がバリュープロポジションで見えます。

ディズニーランド(WTP戦略) ── 提供する価値はサービス・ショー・アトラクション。一方で「価格」は高い(普通の遊園地より)。絶叫マシンに乗りたい人は別の遊園地へ行くし、ショーを見たい人はディズニーへ行く。これも明確なトレードオフです。

演習:スターバックスはどっちの戦略?

ここで考えてみてください。スターバックスはWTP戦略か、コスト戦略か。

答えはWTP戦略です。一般的なコーヒーチェーンより価格は高い。でもその分、居心地・品質・店員のフレンドリーさで価値を提供している。バリュープロポジションで見ると、スターバックスが提供する価値の一番は「居心地」、次いで品質、サービス。逆に「価格」では価値を提供していない(むしろ高い)。だからこそWTP戦略だと分かります。

ちなみに、なぜスターバックスは直営にこだわるのか。フランチャイズだと、加盟店は利益を出すために回転率を上げたくなり、椅子を硬くして客を早く回そうとする(マクドナルドの硬い椅子がまさにこれ)。でもそれでは「居心地の良い空間」という価値と矛盾してしまう。だから直営にして、均一に居心地の良い空間を作る。戦略の軸(WTP)と、バリューチェーンの選択(直営)と、提供価値(居心地)が、すべて一本でつながっているわけです。

3つの道具の使い方まとめ

優位性3分析は、この順で使います。

1. WTP戦略 / コスト戦略 ── まず戦略の軸を決める(付加価値で戦うか、安さで戦うか。どちらか一方)2. バリューチェーン ── 競合とコスト構造を比べ、どこに(あえて)コストをかけて優位性を作るかを見る3. バリュープロポジション ── 提供価値を競合と比べ、何を取り、何を捨てるか(トレードオフ)を確認する

この3つをセットにすると、戦略がくっきりします。逆に言えば、強い会社はこの3つが一本につながっている。スターバックスもライアンエアーもディズニーもIKEAも、軸・バリューチェーン・提供価値が矛盾なく連鎖しています。

内側の強みを見たら、外側の業界構造はファイブフォースの記事で。両者をつなぐゲーム理論の記事もどうぞ。

まとめ

今回の競争優位性を整理します。

– 同じ業界でも勝つ会社と負ける会社がある。その差が競争優位性– まずWTP戦略(付加価値)かコスト戦略(安さ)か、軸を一つ選ぶ。両取りは基本しない- バリューチェーンで競合とコスト構造を比較。あえてコストをかけて優位性を作る場所を見る- バリュープロポジションで「何を捨てるか」を確認する。全部を追うと戦略は弱くなる- スタバ(WTP・直営・居心地)、ライアンエアー/IKEA(コスト)、ディズニー(WTP)——強い会社は軸・連鎖・提供価値が一本につながっている

外部環境(ファイブフォース)と競争優位性(優位性3分析)、これで戦略の両輪がそろいました。でも、戦略の定義を思い出してください。目指すのは「長期にわたる利益」でした。一度きりではなく、勝ち続ける仕組みです。次回は、その長期の利益を作るために——ゲーム理論(囚人のジレンマ)と、回せば回すほど大きくなるバリューループを見ていきます。戦略は、外部・内部を経て、いよいよ未来へと続きます。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」の経営戦略講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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