結論から言います。AIの時代に強いのは、「AIに全部任せる」ビジネスではなく、「AIと人を組み合わせる」ビジネスです。 面倒なデータ処理はAIに任せ、最後の一手は人がつなぐ。一見、効率が悪いようでいて、ここに顧客満足が生まれる。今回は、AIで急成長したアパレル企業Stitch Fix(スティッチフィックス)から、データとAIの活かし方を学びます。
Stitch Fixとは ── AIで選んだ服が届く
Stitch Fixは、2019年に「最も革新的な企業(Most Innovative Company)」の1位に選ばれた会社です(ちなみに2018年の1位はApple)。創業者カトリーナ・レイクは、スタンフォード卒業、ハーバードMBA修了——いわば「本物のスタバード(Study+Harvard)」。2011年にサンフランシスコで創業し、2017年にナスダック上場。女性CEOとして最年少での上場でした。
事業は「アパレルのサブスクリプション」。AIが選んだ服が、毎月届く。成長率は年34%(Amazonと同水準)、売上は1000億円規模。アパレルでこの伸びは驚異的です。6年で上場したスピードが、それを物語っています。
ビジネスモデル ── データ → AI → 人 → 学習
Stitch Fixの流れはこうです。
1. 顧客が情報を登録する ── サイズ、価格帯、好みなど。最初に約80問の質問に答える(これだけでかなりのデータが集まる)。服側のデータも入力されている2. AIが選定する ── 顧客データと服データのビッグデータから、似合いそうな服を絞り込む3. スタイリストが最終決定する ── AIが選んだ候補を、5,100人いるスタイリストが人の目で選び、5点ほどに絞って届ける4. 顧客が選び、返送する ── 気に入ったものはキープ、不要なものは返送。「このドレスは小さすぎた」「この色は派手すぎた」といったフィードバックを、AIとスタイリストの両方が学習する
返送のデータやコメントをAIに戻して学習させるので、使うほど、その人にフィットしていく。返品が起きにくい服を選び続けられるようになる。これがStitch Fixのモデルです。
ミソは「AIに全部任せない」こと
ここがいちばん大事なポイントです。Stitch Fixは、AIに全部を任せていません。
技術が好きな人ほど「最適なアルゴリズムを書いて、全部自動化しよう」と考えがちです(エンジニア出身の人ほどその誘惑がある)。でもStitch Fixは、AIが選んだものを、最後に人(スタイリスト)がつなぐ。手間のかかるデータ処理という「AIが得意な部分」で時間を短縮し、最後の接点は人にする。
なぜこれが効くのか。顧客からすると、AIが選んだのか、スタイリストが選んでコメントを書いてくれたのか分からない。でも、人が自分のために選んでくれたほうが、満足感があるのです。たとえば、子供が生まれたタイミングで子供の靴下が入っていて「おめでとうございます」と一言添えてあったら——これはAIっぽくない、温かみのある体験です(交渉術で学んだ「ごめんなさいは結果的に安上がり」にも通じる、人の気持ちが伝わる接点)。
逆説的ですが、AIの時代だからこそ、人と人とのつながりが価値になる。「AIが来て仕事が奪われる」という話が多いですが、Stitch Fixが示すのは、AIに任せる部分と人が担う部分を融合させる道です。
Amazonの「チョイス」、Stitch Fixの「キュレート」
ビジネスモデルには、大きく2つの型があります。
チョイス(選択肢を与える)型 ── Amazonに代表される。できるだけ多くの選択肢を顧客に提示する。「たくさんの中から自由に選んで」
キュレート(選んで届ける)型 ── Stitch Fixに代表される。たくさんの情報の中から、必要なものだけを収集・整理して届ける。「あなたに合うものを、私たちが選びました」
どちらにもAIが使われていますが、価値の出し方が逆です。選択肢が多すぎて選べない、という顧客に対して「選んであげる」ことに価値がある。これがキュレーションです(余談ですが、スタバード自体も、膨大なMBA・学びの情報を絞って届ける「キュレーションモデル」だと言われます)。
FBCで見る ── 何を速く・良く・安くしたか
新しいビジネスを分析するフレームワークFBC(Faster・Better・Cheaper)で、Stitch Fixを見てみましょう。
– Faster(より速く) ── 買い物の時間を削減。自分で選ばなくても、勝手に届く- Better(より良く) ── 自分に合う服が届く。サイズ探しもコーディネートも不要で、前月の服に合うものが来る- Cheaper(より安く) ── 店舗がないぶんコストが低く、AIが需要を調整するので売れ残り(廃棄)が少ない。だから安く提供できる
既存のアパレルを、この3つの軸で作り変えた。それがStitch Fixのイノベーションです。
速く・良く・安く(FBC)の原点は、ナイキのタイミングの記事で説明しています。
業界の3ステージ:伝統型 → デジタル型 → 融合型
アパレル業界は、3つの段階で進化していると整理できます。
– ステージ1:伝統型 ── ギャップ、ザラ、H&Mなど。実店舗での小売と、人による対話- ステージ2:デジタル型 ── Amazon、Spotifyなど。アルゴリズムとデジタルプラットフォーム- ステージ3:融合型 ── Stitch Fixなど。ITと人の対話のコンビネーション
Stitch Fixは、デジタル型のさらに先、ITと人を融合させたステージ3にいる。ここに、AI時代のビジネスのヒントがあります。
大事なのは「AIよりデータ」
最後に、見落としがちな核心を。AIそのものより、データに価値があります。 どんなに優秀なアルゴリズムでも、質の良いデータがなければ機能しない。Stitch Fixが80問もの質問で丁寧にデータを集め、返送のフィードバックまで学習に回しているのは、そのためです。AIを導入することより、「どんなデータを、どう集めるか」を設計することのほうが先なのです。
デジタル化の大きな流れは、DXの記事とあわせて読むと立体的になります。
まとめ
データとAIのビジネスモデルを整理します。
– AI時代に強いのは「AI任せ」ではなく「AI×人」の融合型- Stitch Fixは、データ→AIが選定→スタイリスト(人)が最終決定→届ける→フィードバックをAIが学習- AIが得意な処理は任せ、最後の接点は人にする。人が選んでくれた満足感が顧客をつなぐ- ビジネスモデルにはチョイス型(Amazon)とキュレート型(Stitch Fix)がある- FBCで見ると、買い物時間(速)・自分に合う服(良)・店舗レスと廃棄減(安)を実現- 業界は伝統型→デジタル型→融合型へ。そしてAIよりデータに価値がある
AIをどう使うかを考える前に、「どこを人が担い、どんなデータを集めるか」を設計する。AIの時代こそ、人の温かみとデータの設計が差を生みます。あなたの事業で、AIに任せる部分と、人が担うべき接点は、どこでしょうか。
これはマーケティング8つのテーマの7つ目(データとAI)です。残るは最後の1つ——プラットフォームとロングテール(アマゾン)を、次に見ていきます。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
