マーケティング

ライバルは潰すより、一緒に育てる ── 競合を「生態系」で考える

結論から言います。ライバルを叩きのめした結果、自分も傷つくことがあります。 競合と激しくやり合いすぎると、市場そのものが壊れ、顧客が離れてしまう。だから、いつも戦うのではなく、ときに協力して市場全体を大きくする——競合を「生態系」として捉える発想が、長い目で見て得をします。

今回は、歯磨き粉のクレストとコルゲートの実話から、この視点を学びます。経営者や事業責任者ほど「ライバルには絶対勝ちたい」と思うもの。でも、その勝利が裏目に出ることがあるのです。

実話:クレスト vs コルゲートの泥仕合

アメリカの歯磨き粉売り場には、いつも「青いコーナー(P&Gのクレスト)」と「赤いコーナー(コルゲート)」があります。二大巨頭です。何が起きたか、時系列で見ましょう。

P&Gのクレストは2000年に、歯が白くなる歯磨き粉(ホワイトニング)を開発。2002年にはなんと5兆円を売り上げる大ヒットになりました。当然、ライバルのコルゲートも黙っていません。対抗製品を出し、その市場の半分を獲得します。

ところが、その後P&Gが行ったテストで、コルゲートのホワイトニング歯磨きにはほとんど効果がないことが判明しました。さて、あなたがP&Gの社長なら、どうしますか?

実際にP&Gが取った行動は——CMやラジオでコルゲートを批判し、訴訟を起こした。 結果、裁判でP&Gが勝ち、コルゲートは80億円の支払いを命じられました。「勝った」わけです。

勝ったのに、なぜ両社とも損をしたのか

ところが、ここからが問題です。消費者の目線で考えてみてください。

「コルゲートのホワイトニングは効果がない」と大々的に宣伝された。すると消費者はこう思います——「そもそもホワイトニング歯磨きって、本当に効くの? 嘘なんじゃない?」。泥仕合でお互いを「効果がない」と攻撃し合った結果、ホワイトニング歯磨き粉というカテゴリー全体への信頼が揺らいだ。だから、訴訟に勝ったP&Gのブランドにも打撃が跳ね返ってきたのです。

これを、あるアニメのセリフになぞらえると「認めたくないものだな、ライバル関係ゆえの過ちというものを」。若さゆえではなく、ライバル関係ゆえの過ち。相手を倒すことに必死になって、自分のいる市場そのものを壊してしまった。

ではP&Gはどうすればよかったか。たとえば、泥仕合をせず、自社が持つ特許の使用権を相手に与えるなどして、市場全体の信頼を守ることもできたはずです。

市場を「生態系」として見る

ここからが今回の核心です。市場を、競合・サプライヤーまで含めた一つの生態系(エコシステム)として捉えてみましょう。

ビジネスはこう成り立っています。サプライヤーから仕入れ(コスト)、価格を設定する。顧客が「これなら払ってもいい」と思う額がコストを上回れば、その差(マージン)が利益になる。これを市場全体で見ると、その生態系で生まれる利益を、そこにいる全員で分け合っていることになります。

つまり、限られたパイを奪い合うゼロサム(誰かが得すれば誰かが損する)の構造です。クレストとコルゲートの争いは、まさにこのパイの奪い合いでした。

でも発想を変えると——ライバルと一緒に、この生態系(パイ)そのものを大きくできないか? パイ全体が大きくなれば、その大きなパイをお互いに分け合える。奪い合いから抜け出せるのです。

業界全体の構造を読む視点は、儲かる業界の見分け方とも重なります。詳しくはファイブフォースの記事で。

ライバルと共存する実例

実際、賢い企業はライバルと「共存」しています。

コカ・コーラとペプシ ── 永遠のライバルとして知られますが、実はコカ・コーラには1930年代にペプシを買収するチャンスが3回ありました。でも買収しなかった。なぜか。良きライバルがいて切磋琢磨するほうが、新製品や技術が生まれ、市場が活性化し安定するからです。独占企業が1社だけになると、怠慢も生まれる。

BMWとベンツ ── ロゴが似ている(どちらも丸い)と感じませんか。発祥はまったく別なのに、互いに商標で訴え合ったりしない。「ドイツ車」というブランドイメージを、いわば一緒に育て、共有している面があります。

ナイキ ── 公式サイトに「いつ competeし(競争し)、いつ collaborateするか(協力するか)」を明確に書いています。生態系として見て、お互いプラスになるところは協力しましょう、という姿勢です。単に「いつでも戦う」のではない。

花王とライオン ── 競合同士でありながら、プラスチック包装容器のリサイクルでは協力しています。製品では競争しつつ、社会的な課題(環境)では手を組む。

これは時代の流れとも合っています。カーボン削減やESG投資の広がりで、これまで協力しなかったライバル企業が「そこは一緒に解決しよう」と組むケースが増えている。製品では差別化しつつ、別の領域では協力する。新しい企業の関係の形です。

「いつ戦い、いつ協力するか」を見極める

大事なのは、競争を全否定することではありません。戦うべきところでは戦う。でも、市場全体を壊すような泥仕合は避ける。「ここは競争、ここは協力」と切り分けて考える。ナイキのcompete/collaborateは、まさにこの見極めです。

ライバルを「邪魔な存在」「倒すべき敵」とだけ見るのをやめて、「同じ生態系で共に市場を育てる相手」と捉え直す。そうすると、勝ち方が変わってきます。

いつ戦い、いつ協力するか。その判断はゲーム理論の記事で深掘りしています。

まとめ

競合を生態系で考える視点を整理します。

– 競争優位性は価値を創造することも、破壊することもある。激しくやりすぎると市場ごと壊れる- クレストvsコルゲートの泥仕合は、訴訟に勝ってもホワイトニング市場全体の信頼を損ない、両社が損をした– 市場は競合・サプライヤーを含む生態系。限られたパイの奪い合い(ゼロサム)になっている- 発想を変え、ライバルと一緒にパイそのものを大きくすると、奪い合いから抜けられる- コカ・コーラ/ペプシ、BMW/ベンツ、ナイキ(compete/collaborate)、花王/ライオンが共存の実例- 「いつ戦い、いつ協力するか」を切り分けて見極める

ライバルに勝つことが、いつも自社の得になるとは限りません。あなたの市場を生態系として眺めて、「ここは協力したほうがパイが大きくなる」という場所がないか、探してみてください。

これはマーケティング8つのテーマの3つ目(競合関係)です。次は、その生態系の中で自社をどう際立たせるか——「差別化」を、Fitbitのスピアアプローチで見ていきます。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

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