結論から言います。分けて投資したほうが、リスクは下がり、投資効率は上がります。「卵を一つのカゴに盛るな」という古いことわざを、数学できっちり証明したのがポートフォリオ理論です。今日はコーポレートファイナンスの第4回、私ニック中谷が「ポートフォリオという名のフロンティア」を旅します。ここはファイナンスの山場ですが、裏側に二つのノーベル賞が隠れている、ロマンのある回でもあります。ゆっくり行きましょう。なお、これは特定の金融商品をすすめる話ではありません。仕組みを理解するための講義として読んでください。
まず質問——AとB、どちらの株を選びますか
いきなり問題です。出発点も今日の株価も同じ、つまり最終的なリターンは同じ二つの株があります。A社はなだらかに上昇し、B社は上がったり下がったりを激しく繰り返す。さて、どちらに投資したいですか(売買はせず、最後まで保有する条件です)。
正解はAです。理由はこうです。投資の原則として、変動の少ない株はリスクが低い。リスクが低ければ、安心して「多く」持てる。なぜ多く持てることが大事かというと、暴れる株は、たまの暴落で資金がゼロになれば破産してしまうからです。破産さえしなければ投資は続けられる。だから変動の小さい株は多く持て、多く持てるからリターンも積み上がる。
ここから導かれる原則がこれです——そのリターンを得るために、どれくらいのリスクを取っているかを把握できれば、リターンを大きくできる。これがポートフォリオマネジメントの背骨です。同じリターンでも、Aはリスクが低くBは高い。だからAのほうがお得、というわけですね。
リスクとは標準偏差である——統計学がここで効く
ここで統計学の回が効いてきます。先ほどの「変動」を数字にしたものが、標準偏差(ばらつき)です。平均からどれだけ乖離しているかを表す、あの値ですね。ファイナンスでは、このリスク=標準偏差、と考えます。ばらつきが大きいほどリスクが大きい。とてもシンプルです。
そしてポートフォリオとは、もともと「証券を入れるカバン」の意味で、要するにさまざまな投資の組み合わせのこと。冒頭のことわざ「Don’t put all your eggs in one basket(すべての卵を一つのカゴに盛るな)」が、その精神を言い当てています。一つの株に全額を投じて倒産すればゼロですが、分けておけば一つ落としても残りが効く。これを理論にしたのがポートフォリオ理論です。
効率的フロンティア——リスク最小の組み合わせを探す
ポートフォリオ理論で1990年にノーベル経済学賞を受けたのが、ハリー・マーコウィッツです。彼は、ポートフォリオの収益率の期待値とばらつき(分散)だけをコントロールするという考え方を打ち立てました。
やることはこうです。リスクもリターンも異なる複数の株(A・B・C・Dとしましょう)があるとき、それぞれの相関関係を計算し、組み合わせ全体のばらつきが最小になる配分を探す。値動きが互いに打ち消し合うように組めば、全体の変動は小さくできます。これを計算して点を打っていくと、一本の曲線が浮かび上がる。これが効率的フロンティア曲線です。
曲線が描けたら、最適なポートフォリオを見つけます。縦軸の切片にリスクフリーレート(国債10年の利回りが基準。これを下回る投資に意味はありません)を置き、そこから曲線へ接線を引く。その接点こそ、最も投資効率の良い構成、すなわちマーケットポートフォリオです。あとはこの構成と、リスクフリーレートをどんな割合で混ぜるかを決めれば、リスクとリターンがきれいに比例する一本の直線の上を、自由に動けるようになります。
ここがこの理論の素晴らしいところ。5%でも5.5%でも6%でも、同じ構成のポートフォリオを使い、リスクフリーレートとの配合だけで好きなリターンを設計できる。たとえばリスクフリーレートが1%で、自分は10%欲しいなら、9%分をポートフォリオで稼ぐように混ぜる——その配合度合いを自分で決められるわけです。
実際にはエクセルで計算します。たとえば11銘柄の株価と相関係数を用意し、ソルバー機能でばらつき(分散)が最小になる配分を逆算させる。リターンを1%ずつずらしながら、対応する標準偏差をプロットしていくと、あの曲線が描ける。経験上、12銘柄くらい組み合わせるとリスクは十分に下がり、それ以上増やしてもあまり変わりません。私も初めて自分でポートフォリオを組み、エクセルにこの曲線が現れたときは感動しました。
シャープレシオ、アルファ、ベータ——投資の効率を測る
もう一人のノーベル賞、ウィリアム・シャープ(1990年受賞)も登場します。彼は最も効率的に分散されたポートフォリオを求めるCAPM(資本資産価格モデル)を築いた人で、その名を冠した指標がシャープレシオです。計算は、収益率からリスクフリーレートを引き、標準偏差で割るだけ。ばらつきが大きいほど小さくなるので、シャープレシオが大きいほど投資効率が良い、と読みます。
そして投資のばらつき(乖離)には二種類あります。ベータとアルファです。ベータは、市場平均(東証ならトピックスのようなインデックス)からの乖離で、CAPMで計算する一つ目の乖離。アルファは、そのCAPMからのさらなる乖離で、個別銘柄の選定がもたらす上乗せ分です。ベータを基準にアルファを求めるので、ベータを先に理解する必要があります。
アルファの読み方が実用的です。アルファがゼロならCAPMが完全に成立している状態。プラスなら理論値より収益率が良い=市場で過小評価されている=買いシグナル。マイナスなら理論値より悪い=過大評価=売りシグナル、と解釈します。投資スタイルとの対応も覚えておくと便利で、個別銘柄の割安・割高を分析して市場平均に勝とうとするアクティブ運用派はアルファを、インデックスでじっと待つ長期分散のパッシブ運用派はベータを重く見ます。
実際の投信ページにも、これらは載っています。たとえば米国株式S&P500インデックスの数値を読むと、アルファが6.37、ベータが0.85。アルファがプラスなので理論値より収益率が良く割安寄り、ベータが1より小さいので市場全体より値動きが小さい——と読み解けます。なお投資銀行はこの先のガンマという指標まで使いますが、私たちが理解する分にはアルファとベータで十分です。
まとめ——分散すれば、リスクは下がり効率は上がる
今日のポイントを整理します。変動の大きさはリスクの大きさで、リスク=標準偏差。変動が小さければ株を多く持て、リターンを積み上げられます。ベータはインデックスからの乖離、アルファはCAPMからの乖離で、この二つを組み合わせれば個別銘柄のリターンをモデル化し、割安・割高を見抜けます。そしてポートフォリオは分散投資であり、効率的フロンティアを描けば最適な組み合わせが見つかる。
突き詰めれば、学びは一つ——分けて投資したほうが、リスクは下がり投資効率は上がる。投信という商品が、こうした理論の上に設計されていると知るだけでも、ニュースの見え方が変わります。コーポレートファイナンスに隠れた四つのノーベル賞(MM理論・CAPM・ポートフォリオ理論、そして最後のブラックショールズ)のうち、ここで三つに触れました。残る一つ、デリバティブとブラックショールズは次回で完結します。世界の見え方が変わると、行動が変わります。
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