結論から言います。文化に唯一絶対の正解は存在しません。そして——ここがいちばん大事なのですが——世界から見ると、私たち日本人はかなりの「変わり者」です。これを知っているかどうかで、外国人とのマネジメントは大きく変わります。外国人労働者が増え、海外と仕事をする機会も当たり前になったいま、文化の違いを理解できないとチームは回りません。今日は私ニックナカタニと一緒に、文化を「数字」で測るホフステードの研究を手がかりに、ダイバーシティをパフォーマンスに変える達人を目指しましょう。
クロスカルチャーマネジメントとは——文化とステレオタイプの学問
クロスカルチャーマネジメントは、文化とステレオタイプを理解する学問です。なぜ必要かというと、国や地域の文化が、人間の社会的行動と組織のあり方に影響しているから。国によって人の反応や動き方が違うのは、なんとなく実感がありますよね。
ひとつ大切な但し書きを先に置きます。ここで言う文化の違いは、あくまで「平均的な思考や傾向」を示すものであって、個人の性格を断定するものではありません。「ドイツ人だから必ずこう」ではない。ただ「こういう傾向があると理解したうえで付き合うとうまくいく」、その手がかりとして使うものです。ここを外すと、ただの決めつけになってしまうので注意してください。
今日のケーススタディは、オランダの学者ヘールト・ホフステードの研究に基づきます。1967年から1973年にかけて、IBMの社員11万6千人を対象に、72カ国・20の言語で行われた大規模調査です。そのホフステードがいきなりこう言っています。「文化はシナジーよりも、むしろ紛争の原因になることが多い。文化の違いはいくらよく見ても厄介で、しばしば大惨事になる」。それくらい根深いテーマだ、ということですね。
ホフステードの文化次元で世界を測る
ホフステードは、文化を複数の「ものさし」で数値化しました。代表的な5つを、講義でやったクイズ形式で見ていきましょう。日本のスコアを予想しながら読むと面白いですよ。
ひとつ目はパワーディスタンス(権力格差)。数値が高いほど格差が大きく、社長と一般社員が顔を合わせる機会が少ない、直接的な指示を待つ、上司が父親的存在、といった傾向が出ます。低いと、相談が好まれ、民主的で、子どもも自立する。1位はマレーシアで104、中国80、インド77、シンガポール74と続き、デンマークは18。さて日本は——54でした。韓国とイタリアの間で、ほぼ中間。「もっと上だろう」と思った方も多いはずです。傾向としては、北欧が低く、アジアが高い。
ふたつ目は個人主義 vs 集団主義。数値が高いほど他人と群れるのを避け、仕事では役割の範囲がはっきりして、頼まれない限り同僚を手伝いません。1位は予想通りアメリカで91(ただしオーストリアやイギリスも高く、ダントツではない)。では日本は——46。中間です。意外にも、韓国や中国、シンガポールのほうが集団主義寄りでした。
三つ目は不確実性の回避。リスクへの許容度で、高いほど新しいものを避けたがり、低いほど果敢に挑戦します。これは日本がダントツの1位。2位韓国、3位イタリア、4位ドイツ。面白いのは、上位に車を作る製造業の国が並ぶこと。きっちり作らないと壊れて困るから、不確実性を避けたいんですね。逆にシンガポールは不確実性が大好き。私自身、前職でシンガポール出身の上司が続いたとき、不確実性だらけで話が合わずに苦労しましたが、それも文化の違いと分かれば面白いものでした。
四つ目は男性主義 vs 女性主義。社会構造が男性優位かを示し、高いほど女性の社会進出や管理職比率が低い傾向。男性主義は職場で自信過剰・キャリア重視、学校で「ベストでなければ」と競争を好み、女性主義は控えめで生活の質を重んじ、「普通の成績で普通」を良しとします。日本は——95でダントツの1位。2位イタリア、3位アイルランドを大きく引き離します。女性主義に近いのはオランダ、デンマーク、韓国でした。
五つ目は長期主義 vs 短期主義。長い目で物事を見るかどうか。1位は意外にも中国で、香港が続き、日本も高い。逆にイギリス・アメリカ・ドイツは短期志向が強い。総じて、アジアの国が長期的視点を持っていると言えそうです。
4カ国を並べると見えること——独・米・日・中
アメリカ・ドイツ・日本を並べると、構図がくっきりします。個人主義はアメリカが高く日本がその逆、ドイツは真ん中。不確実性回避は日本が極端に高く、アメリカはそうでもなく、ドイツは真ん中。男性主義も長期視点も、日本が一方の端、アメリカが反対の端、ドイツがその中間。つまりドイツは、アメリカと日本のちょうど真ん中あたりの文化なんですね。私はアメリカの企業に勤め、いまはドイツの会社の代表をしていますが、アメリカの極端さがドイツでは半分くらいになる、という肌感覚は本当に如実です。
各国の文化的キーワードを並べるとこうです。ドイツは技術志向・職人気質・継承で、部門間のコラボレーションはやや弱い。アメリカは個人満足と独立・コラボが得意・個人主義ダントツ・イノベーションと起業。日本は信頼・全体主義・系列・長期的関係で、新しいものには弱い。なんとなく、腑に落ちますよね。
文化と起業家精神——なぜ日本は起業が根付きにくいのか
ここで文化と起業家精神を重ねてみます。起業家精神やイノベーションが、国の文化によって直接・体系的に決まるわけではありません。ただ、不確実性の回避(日本1位)や男性主義(日本1位)、内部統制の所在への寛容と、強く相関することが分かっています。
起業家精神が育ちやすい組み合わせは、強い個人主義・小さな権力格差・長期的な方向性。この観点で見ると、日本は——起業家精神があまり根付きにくい文化、ということになります。逆にアメリカは文化的に起業が強い。これは良し悪しではなく、傾向として知っておくと、自分や組織の癖が見えてきます(起業そのものの設計図は起業の記事で扱っています)。
ダイバーシティをパフォーマンスに変える——D&IからEDIへ
最後に、現代の経営に直結する話を。ダイバーシティ(多様性)は、年齢・性別・民族・宗教・性自認・国籍などの違いを尊重し団結すること。インクルージョン(包括性)は、どんな個人や集団も歓迎・尊重され、帰属意識を持てる環境をつくること。あわせてD&Iと呼びます。
ここで肝心なのは、多様性そのものが成果を生むわけではない、という点です。複雑なタスクで統計を取ると、多様なチームでもマネジメントが悪ければパフォーマンスはむしろ下がります。考えの違う人が集まって放置されれば、てんでバラバラに動くからです。ところが、良いマネジメントを施すと、多様なチームのパフォーマンスは跳ね上がる。
ではその「良いマネジメント」とは何か。4つの要素で覚えてください。Safe(安全な環境)、Welcome(歓迎する)、Celebrate(称える)、そしてCherish the difference(違いを大切にする)。この文化がある組織で、ダイバーシティはようやくパフォーマンスに変わります。これは、目的を共有して全員を当事者にする自走する組織づくりとも、根っこは同じ話です。
近年はD&Iに公平性(Equity)を足してEDIと呼ばれます。資源・情報・機会へのアクセスを均等にする、という考え方です。キーワードとして押さえておきましょう。
まとめ——「日本人は変わっている」と知ることが第一歩
今日のポイントを整理します。文化は社会に大きな影響を与えますが、唯一絶対の文化は存在しません。文化は違う、と認識すること。そして、日本人は世界から見ると相当な変わり者だと自覚すること。さらに、すべての人は違うのだから、傾向は理解しつつ先入観で決めつけないこと。
面白いのは、お互い様だということです。私たちが「アメリカ人は個人主義すぎて頭がおかしいのでは」と思うのと同じくらい、向こうも「日本人は頭がおかしいのでは」と思っている。それが分かると、不思議と許せるんですね。実際、文化の違いを甘く見て海外で失敗した例は山ほどあって、たとえばIKEAが米国市場でつまずいた話もその一つです。相手の文化を理解し、自分が相手にどう見えているかを知る——そこに立てると、マルチナショナルなマネジメントが始まります。世界の見え方が変わると、行動が変わります。
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