マーケティング

マーケティングは「ぐるぐる回す」8つの問い

結論から言います。マーケティングに「これだけやれば大丈夫」という唯一の正解はありません。 SNSもインターネット広告も手法は次々変わります。でも、時代が変わっても変わらない基本の要素がある。そして大事なのは、それらを一度やって終わりにせず、ぐるぐる回し続けること。マーケティングは一枚の設計図ではなく、終わりなき旅です。

僕のオンライン講座では、マーケティングを8つのケースで学びます。ナイキ、スウォッチ、P&G、Fitbit、スターバックス、IKEA、Stitch Fix、アマゾン。それぞれが一つのテーマを体現していて、8つ合わせるとマーケティングの全体像になります。今回はその8つを一望できる地図をお渡しします。自分の事業に当てはめながら読んでみてください。

マーケティングの8つのテーマ

1. タイミング ── 潮流を読む(ナイキ)

ナイキは自社の売上構成の変化を見て、「スポーツ用品がファッションアイテムとして認知されつつある」と捉え、機能性だけでなくデザイン性の高い製品(エアジョーダン)を投入しました。

ここで重要な学びがあります。エアジョーダンやエアマックスに使われたエアソール技術は1979年にできていたのに、爆発的に売れたのは1987年。技術ができたタイミングと、売れるタイミングは違うのです。8年もの差があった。マーケティングは、潮流(時代の流れ)を読んで、いつ仕掛けるかが勝負を分けます。

2. ブランド ── 明確なメッセージを作る(スウォッチ)

ブランドを作るには、明確なメッセージが必要です。スウォッチのメッセージは「2つ目の時計を持とう」。時計を「正確に時を知る道具」から「ファッションとして複数持つもの」に再定義しました。

ポイントは、メッセージに5つの購買体験(製品・価格・販売チャネル・宣伝・ブランディング)を紐づけること。スウォッチは世界共通価格を10年据え置き(価格の信頼)、ド派手な広告でビルに巨大な時計を貼り、あえて高くつくメイド・イン・スイスにこだわった。すべてが一つのメッセージに紐づいています。同じ構造は、黒にこだわるヨウジヤマモト(「黒は謙虚で傲慢だ」)、徹底したミニマリズムのアップル(棚もレジもない店舗)にも見られます。

3. 競合関係 ── 生態系として育てる(P&G/クレスト)

競合は、いつも叩き合う相手とは限りません。P&Gとクレストはホワイトニング歯磨きで泥仕合をして、「ホワイトニング自体が嘘では?」と消費者に疑われ、両社とも打撃を受けました。

ここでの学びは、市場を生態系として捉えること。一つの市場の利益を、競合もサプライヤーも含めた全員で分け合っている(ゼロサム)。だから、ライバルと潰し合うより、ライバルと一緒に生態系(パイ)を大きくするほうが得なことがある。コカ・コーラはペプシを買収できる機会が3回あったのにしなかった。ナイキは公式サイトに「いつ competeし、いつ collaborateするか」を明記しています。良きライバルがいるほうが、市場は活性化するのです。

4. 差別化 ── 狭く深いターゲットに刺す(Fitbit)

差別化は、狭くて深いターゲット選定から生まれます。 これを「スピアアプローチ(槍)」と呼びます。全方位に広く浅くアプローチする「スプレー(霧吹き)」では、強みが薄まり差別化できない。槍のように一点を深く突く。

活動量計は一見華やかでも実はレッドオーシャンで、MicrosoftやJawboneは撤退・破産しました。勝つには、たとえば「アスリート向けの高精度モデル」「生活習慣病患者向けのメディカルデバイス」のように、特定セグメントに深く刺さる機能を狙う。ナイキの「マーケットピラミッド」(トップアスリート向けに深く刺し、それが一般層へ降りていく)も同じ発想です。

5. フィードバック ── 顧客の声で磨く(スターバックス)

良い商品は、顧客フィードバックから生まれます。スターバックスは満足度アンケートを分析し、顧客が1つの塊ではなく複数のセグメントに分かれていることを発見しました。「顧客歴5年以上・富裕層・ブランド信頼が高い既存顧客」と「顧客歴1年未満・若者・単価が低い新規顧客」では、求めるもの(ニーズ)が違う。

セグメントごとにニーズを把握すれば、「どちらをどれだけ満足させるか」と戦略が切れる。これがないと、どっちつかずになる。セグメントの切り口は4つ(地理的・人口統計・心理的・行動)。加えて、ABテスト(実際に客に試してもらい、どちらが良いか見る)で磨く。

6. トレードオフ ── ネガティブから発想する(IKEA)

かつてのマーケティングは「顧客は決して満足しない。だからメリットをどんどん増やす」という発想でした。IKEAは逆です。顧客はトレードオフ(良い面と悪い面)を自分で選ぶ。「自分で組み立てる手間はあるが、安い。私はこれを選ぶ」と。

だから今日の教訓は、顧客価値の創造はネガティブから発想せよ。何でも盛るのではなく、「ここは価値を提供するが、こっちは提供しない」と割り切る。全部を追うと戦略は弱くなります(これは戦略論のバリュープロポジションとも通じます)。

7. データとAI ── ビジネスモデルを作り直す(Stitch Fix)

Stitch Fixは、AIとビッグデータを使って、既存のアパレルの売り方そのものを新しいビジネスモデルに作り変えました。 手法ではなく、ビジネスモデルのレベルでデータを活かす。時短・パーソナライズという現代の顧客トレンドにも応えています。

8. プラットフォーム ── ロングテールで栄える(アマゾン)

アマゾンのようなプラットフォームが生まれて、市場はロングテール(長い尻尾)に変わりました。検索で見つけられるようになったことで、これまで埋もれていたニッチな製品のシェアが増えた。恐竜の尻尾が伸びるように、ニッチや新規参入にチャンスが広がったのです。

ここで使えるのが中間セグメントという発想。たとえば「ビール」と「軽井沢ビール」の間に「地ビール」というブランドを作る。自社の尖った製品(差別化)を、似た顧客層を持つものと組み合わせて、プラットフォーム化する。アマゾンが目指したのは「世界一顧客志向の会社」で、その差別化は「より多い選択肢・低価格・速くて信頼できる配送」でした。

8つのうち主要なものは個別にも深掘りしています。まずはタイミングの読み方ブランドの作り方差別化の考え方から読んでみてください。

大事なのは「ぐるぐる回す」こと

この8つは、1から8まで一度やって終わり、ではありません。8まで来たら、また1(タイミング)に戻る。今の潮流は何か、ブランドメッセージは更新すべきか…とぐるぐる回し続ける。消費者が求めるものは時代とともに変化するからです(今のトレンドは、オムニチャネル・時短・社会性と透明性・パーソナライズの4つ)。何周も回すうちに、事業が時代に合わせて磨かれていく。終わりなき旅、というのはそういう意味です。

自分の事業を診断する8つのチェック

最後に、自分の事業を点検する8項目を置いておきます。一つずつ「できているか」を問うてみてください。弱いところが、次に手を入れる場所です。

1. 時代の流れ(潮流)を踏まえて逆算しているか?(タイミング)2. 明確なブランドメッセージがあるか?(ブランド)3. 競合を考慮しつつ、市場全体の拡大を考えたか?(競合関係)4. 狭く深いターゲット選定から差別化できているか?(差別化)5. 顧客満足を測るフィードバックを得て、商品に反映しているか?(フィードバック)6. 顧客に提案する価値のトレードオフは明確か?(トレードオフ)7. データやAIを使ってビジネスを最適化しているか?(データ・AI)8. 中間セグメントでプラットフォームを考えたか?(プラットフォーム)

全部に「できている」と言える事業は、まずありません。弱いところを見つけ、そこを改善して、また一周回す。これがマーケティングの実践です。

自分の事業を診断したら、顧客セグメントの測り方プラットフォーム時代の戦略もあわせてどうぞ。

まとめ

MBA流マーケティングの全体像を整理します。

– マーケティングに唯一の正解はないが、時代が変わっても効く8つの基本テーマがある- タイミング/ブランド/競合関係/差別化/フィードバック/トレードオフ/データ・AI/プラットフォーム– 8つは一度きりでなくぐるぐる回す。消費者のニーズは時代とともに変わるから- 8つのチェック項目で自社を診断し、弱い所から改善して、また回す

マーケティングは、鮮やかな一手ではなく、回し続ける営みです。まずはこの8つの問いで、自分の事業を一周点検してみてください。それぞれのテーマは、これから個別に深掘りしていきます。


この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のマーケティング講義(全8回)の内容をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。

8つの問いを一通り押さえたら、全40講義を一望するMBAエッセンス総まとめもどうぞ。

Free Email Course
この続きを、無料メール講座で。
ハーバードAMPに学んだ設計者が、MBAのエッセンスを無料でお届けします。

登録は数十秒。いつでも配信解除できます。