実務・現代ビジネス

サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは何か——ESGとSDGsで「世界の見え方」が変わる

結論から言います。SX(サステナビリティトランスフォーメーション)というのは、「企業の稼ぐ力の持続性」と「地球の持続性」の両方を同時に実現しようとする、いまの時代の大きな潮流です。サステイナブル、ESG、SDGs——日経新聞を開けば毎日のように出てくるけれど、正直よくわからない。そういう方がとても多いと思います。今日はこの三つのキーワードを、私ニックナカタニが一本の線でつないでお話しします。サステイナブルを知ると、世界がこれからどう変革していくのかが見えてくる。これが今日のいちばんのポイントです。

SXとは何か——サステナビリティトランスフォーメーションの正体

SXはサステナビリティトランスフォーメーションの略です。サステナビリティというのは「持続性」のこと。私もずっと「サステナブル」だと思っていたんですが、正しくは「サステナビリティ」ですね。

ではトランスフォーメーションとは何か。これはチェンジ(変化)とは少しニュアンスが違います。蛹(さなぎ)が蝶になるとき、英語でトランスフォーメーションと言うんですね。同じ生き物なのに、姿かたちがまったく別物になる。そういう「次元の違う変身」を指す言葉です。DX(デジタルトランスフォーメーション)でも同じ説明をしましたが、ここでも同じです。

つまりSXとは、企業のサステナビリティ(稼ぐ力の持続性)と、社会のサステナビリティ(地球の持続性)の両方を、別物に変身させるレベルで実現していこう、という大きな枠組みです。会社だけ生き残っても地球が壊れたら意味がないし、地球にやさしくても会社が潰れたら続かない。だから両方を同時に、というのがSXの発想です。

なぜ今SXなのか——高まる不確実性と地球規模のリスク

なぜここまでSX、SXと言われるようになったのか。背景にあるのは「不確実性の高まり」です。

いまの世の中、本当に不確実なことばかりですよね。いちばん身近だったのが新型コロナです。あんなに世界中に蔓延するとは、誰も予想できなかった。実際、2021年の「影響が大きいリスク」のランキングを見ると、1位が感染症、2位が気候変動でした。さらに大量破壊兵器、生物多様性の喪失、天然資源の危機、人為的な環境災害、生活破綻、異常気象——こういったものが上位に並びます。

コロナで自然の脅威を肌で感じ、「自分たちの生活って本当に持続可能なのか?」という危機感が一気に強まった。この危機感こそが、SXが重要だと認識されるようになった土台です。

企業が備えるべき4つのリスク

私たちはビジネスをやっているわけですから、ここを経営の言葉に落とし込んでおきましょう。企業が備えるべきリスクは、大きく4つです。

ひとつ目は物理的リスク。洪水や台風といった気象による損害、物流の混乱、資源不足から生じる損失です。コロナのときも物流がズタズタになって、物が届かないということがありましたね。

ふたつ目は責任リスク。異常気象による損害賠償などで、保険会社が大きな負担を抱えるリスクです。保険会社が破綻したら大変なことになります。

三つ目は移行リスク。石油会社などが、石油から太陽光や風力といった再生可能エネルギーへ移行する。その脱炭素にかかる莫大な費用と、「本当に回収できるのか」という貸し倒れリスクです。

四つ目は評判リスク。不買運動や炎上による株価の下落、売上の低下です。

実例を挙げます。ファーストリテイリングは、中国によるウイグル族の強制労働問題に関連して、同社が綿を使用している疑いがあるというだけで株価が低迷しました。原因はそれだけではないかもしれませんが、ひとつのきっかけにはなった。つまり、人権や環境の問題が、いまや直接、株価に影響する時代になったということです。

ESG投資——なぜ投資家は「ESG」を見るのか

ここから本題のESGです。ESGは三つの頭文字をとったものです。Eはエンバイロメンタル(環境)、Sはソーシャル(社会)、Gはガバナンス(企業統治)。この環境・社会・ガバナンスに積極的に取り組む企業に投資する、これがESG投資です。

なぜそんな企業に投資するのか。投資は長い時間をかけて行うものですから、「ESGにしっかり取り組んでいる企業ほど、長期的に安定したリターンを得られる」という理論に基づいています。投資家は「この会社、ESGちゃんとやっているかな」と見て、安定したリターンを狙うわけです。

そしてポイントは、ESG投資の額が世界でも日本でも、2016年・2018年・2020年と毎年増え続けていること。ヨーロッパだけが先行している、という局所的な話ではなく、全世界的な流れなんですね。だからこそ各国が脱炭素やカーボンニュートラルに動いている。「ESGなんて知りません」では、もう経営はやっていけません。

ESGはどう評価されるのか

では評価方法です。投資ファンドがESGの基準を決め、各企業に点数をつけています。Eなら気候変動・自然資源・環境汚染、Sなら人材・製品責任・ステークホルダー、Gならコーポレートガバナンスや企業行動、といった具合です。

代表的な指標が「MSCIジャパンESGセレクトリーダーズインデックス」。たとえば気候変動の評価では、二酸化炭素の排出量、カーボンフットプリント、財務への環境インパクト、気候変動への許容度などをモニタリングして点数化し、公開しています。

ここが怖いところで、ESGの評価が低いと、こうしたファンドの投資対象から外れてしまう。すると株価が下落する可能性がある。株価の下落は、経営責任になりかねません。

逆の好例がソニーです。環境・社会・ガバナンス(女性役員の登用なども含む)をきちんとレポートし、2020年にこのインデックスで最高ランクのAAを取得しました。企業はこうしてESGの取り組みを投資家にアピールし、高い評価を取り、株価を上げたいと考えているわけです。

物言う株主がかける圧力

さらに「物言う株主」、つまり大きな投資ファンドが、企業にESG推進の圧力をかけています。たとえば、女性の取締役が不在の日本企業に対して、社長などの選任に反対する方針を示す。株主総会で「この人を社長に」と決議したくても、女性取締役がいないと「同意しません」と言われてしまう。これでは決議が通りません。

「うちは全員男性でいきます」が、もう許されない時代になってきた。経営をやっていてESGを知らないと、株主代表訴訟のような形で、下手をすれば社長が職を失いかねない。だからこそ、ハーバードでもサステナビリティを徹底的に学ぶんですね。投資家が見ている指標の話は、財務の読み方ともつながります(このあたりはROEや安全性を扱った財務分析の記事、PERや時価総額を扱ったM&Aの記事も合わせて読むと立体的になります)。

SDGsはビジネスチャンスである

次にSDGsです。あの丸いカラフルなバッジ、見たことありますよね。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」から始まって、全部で17個。これは国連が決めた、世界共通のゴールです。

そして強調したいのは、SDGsは単なる「やった方がいいよね」という道徳目標ではない、ということ。SDGsによって、年間最大12兆ドルの市場と、3.8億人の新規雇用の機会が生み出されると言われています。つまりSDGsに取り組むこと自体が、新しいビジネスを生む。だから企業はこぞって「SDGs、SDGs」と言っているわけです。

ちなみに私の推しは4番、「質の高い教育をみんなに」です。スターバードをやっていますからね。皆さんも、自分はどの番号を意識するかを決めてみると、SDGsがぐっと身近になりますよ。

ESGとSDGsの関係——一本の線でつなぐ

「ESGもSDGsも横文字で、結局どう違うの?」とよく聞かれます。整理するとこうです。

ESGのE(環境)とS(社会)は、SDGsの内容をほぼ包含しています。G(ガバナンス)は企業統治の話なので少し毛色が違いますが、EとSはSDGsと重なる部分が大きい。実際、日本の年金を運用するGPIFも、企業のSDGsの活動をESG投資という形で評価していますし、欧州最大級の運用会社アムンディも、ESG分析のなかでSDGsを見ています。

つまり流れはこうです。企業からすれば、本当に意識しているのはESGです。ESGの評価を上げて株価を安定させたい。そのためにSDGsに取り組む。だから世の中にこれだけSDGsという言葉が溢れている。ESGの評価を高くするには、SDGsの取り組みが必要、と覚えてください。

演習で見る企業事例——サラヤとパタゴニア

ここで、講義でも取り上げた事例を二つ紹介します。

ひとつ目はサラヤ。第1回ジャパンSDGsアワードを2017年に受賞しています。パーム油の森林伐採をめぐる批判のあと、先駆的に経営改革を実施したことが評価されました。やり方が秀逸で、自社のバリューチェーンにSDGsのゴールをマッピングし、当てはまる項目をひとつずつ、徐々に活動を増やしていったんですね。

ここで「バリューチェーン」が出てきます。これはスターバードの戦略の回で学んだフレームワークです。自分たちの機能を並べて、どこで利益を生んでいるかを可視化する。そこにSDGsの項目を重ねていくと、とても分かりやすい。いまや、バリューチェーンを使ってSDGs戦略を作るのが主流になっています。

ふたつ目はパタゴニア。世界で最も有名なサステナブル企業と言われます。企業理念はなんと「地球を救うためにビジネスを営む」。製品の約70%がペットボトルなどの再生素材で、綿製品はすべてオーガニック。さらにすごいのは、自社のサプライチェーン全体を見て、取引先が環境保全に取り組むよう指導し、その取引先情報まで公開していること。農場や加工工場にまで自分たちで足を運んで指導する。サプライチェーン全体を企業の責任として捉え、ESGに取り組む。これが「世界一サステイナブルな企業」と言われる所以です。

SXクイズで腕試し

ここまでのおさらいを、講義でやったクイズ形式で確認しましょう。

第1問。SXとは何の略でしょうか。——答えはサステナビリティトランスフォーメーション。企業と地球、両方の持続性を実現することでしたね。

第2問。ESG投資のESGとは何を示しているでしょうか。——答えはEnvironmental(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)。

第3問。経営戦略にSDGsを取り入れるために使うフレームワークは、次のうちどれでしょうか。A)ファイブフォース B)バリューチェーン C)SWOT。——答えはB)バリューチェーンです。サラヤの事例で見た通り、自社のバリューチェーンにSDGsをマッピングするのが王道です。

テスラの時価総額が教えてくれること

最後に、SXが「投資の環境そのもの」を変えてしまった象徴を一つ。テスラの時価総額が、一時とんでもない水準まで跳ね上がったのを覚えている方も多いと思います。

これは何を意味するか。脱炭素・サステナビリティという大きな潮流が、お金の流れる先を根こそぎ変えてしまったということです。ESG投資の額が毎年増え、投資家がサステナブルな企業を選ぶようになった結果、こうした企業に評価とお金が集中する。SXは、企業の中の取り組みにとどまらず、市場の評価軸そのものを変えてしまったわけですね。これはDX(デジタル技術によるビジネスの変革)と並ぶ、現代を読み解く二本柱です。両方を押さえると、ニュースの見え方が一段クリアになります(DXの記事も合わせてどうぞ)。

まとめ——サステイナブルを知ると、世界の見え方が変わる

今日のポイントを整理します。SXとは、企業と地球の持続性をともに実現すること。背景には、地球規模のリスクへの危機感の高まりがあります。ESG投資は世界で増加傾向にあり、経営戦略にSDGsを取り入れることでESGの評価が高くなりやすい。SDGsの内容はESGの中に包含されているので、ESGを意識すれば自然とSDGsに取り組む形になる——これが全体像です。

私たちが目指したいのは、3年後・5年後・10年後の未来から逆算してビジネスを作ること。いまはまだ時代が追いついていない領域でも、逆算すれば「この流れは確実に来る」と分かる。先駆けて取り組んだ実績が、次の足がかりになります。だからハーバードでも、サステナビリティをあれほど真剣に学ぶんですね。サステイナブルを知ると、世界がどう変革するのかが見えてくる。世界の見え方が変われば、行動が変わります。

スターバードでは、こうしたMBAのエッセンスを「世界の見え方が変わる」順番で体系的にお届けしています。ESGやSDGs、SX・DXといった現代の必須テーマを、ビジネスの現場でそのまま使える形で学びたい方へ。「MBAに行かない人のための無料メール講座」では、本記事のような講義のエッセンスを少しずつお届けしています。よかったら、こちらからご登録ください。

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