結論から言います。リーダーシップは、知識として学んでも身につきません。 スティーブ・ジョブズを外から観察しても、テニスを見るだけで打てるようにならないのと同じで、上手くはならない。コートに降りて、自分でボールを打つしかない。そしてその第一歩は、立派な技術を覚えることではなく、「本来の自分」になること——いわば、自分にかぶさった「玉ねぎの皮」を剥いていくことから始まります。
これは、僕が著書『オニオンリーダーシップ』(中央公論新社)で体系化した考え方です。今回は、講座で全8回かけて教えるリーダーシップの全体像を、一つの地図としてお渡しします。自分のリーダーとしてのあり方を振り返りながら読んでみてください。
なぜ「玉ねぎ」なのか
人は誰でも、生まれてから今まで、自分でも気づかないうちに「皮」をかぶって生きています。その皮は自分にも他人にも見えない。だから「あなたは玉ねぎだ」と言われてもピンと来ない。でも確かにある。そして、リーダーシップを発揮するには、この皮を1枚ずつ剥いて、本来の自分に戻る必要があります。皮を剥くのは自分にしかできない作業です(他人が剥いてあげることはできない)。
なぜ本来の自分が必要か。リーダーシップとは、どんな状況でも、自発的・直感的・効果的に応答することだからです。何かが起きるたびに「ちょっと待って、どうするか調べるから」では発揮できない。本来の自分でいてはじめて、その場で適切に動けるのです。
ちなみに、リーダーシップが社内(組織)の人の行動を変えることなら、マーケティングは社外(顧客)の行動を変えること。どちらも「人の行動を変える」点で根は同じです。
全体像:3つのパート
オニオンリーダーシップは、大きく3つのパートで構成されます。
1. 本来の自分になる(基礎) ── 玉ねぎの皮を3枚剥く2. リーダーシップの実践(7つの要素) ── 数値で自分を測る3. 自走する組織を作る(最終目標) ── 全員が同じ方向に漕ぐ仕組み
順に見ていきます。
パート1:玉ねぎの皮を3枚剥く
本来の自分になるために剥く皮は、3枚あります。それぞれを象徴する比喩で覚えます。
1枚目:コンタクトレンズ(意味を作るレンズ) ── 私たちは、出来事に勝手に「意味」をつけて見ています。遅い車にイライラするのは、車のせいではなく、自分のレンズ(脳)が「遅い=悪い」という意味を作っているから。つまり、イライラしているのは「あなた」ではなく「脳」。これに気づくと、感情に振り回されず対応できるようになります。そして、組織の全員がそれぞれ違うレンズをかけている、と理解することが、リーダーの出発点です。
2枚目:ヘッドホン(完全に聞く) ── 私たちの耳には、本当の声が聞こえなくなるヘッドホンがついています。相手が話している最中に「自分は嫌われているのかな」といった内面の声が聞こえ始めたら、それはもう相手の話を聞いていない証拠。リーダーに必要なのは「完全な聞く」——相手に「この人は完全に聞いてくれた」という経験を残すこと。同意や理解とは違います。これが組織のコミュニケーションの基盤になります。
3枚目:チャットボット(立場を理解する) ── つい言ってしまう言葉(「いい加減にしなさい」など)の裏には、必ず立場があります。母親が小言を言うのは「母親という立場」から。その立場を理解してあげると、言葉の真意が見えて、もっと聞けるようになります。
この3枚を剥くことで、本来の自分に戻り、周りの人の皮も剥けるようになります。
3枚の皮は個別に詳しく解説しています。1枚目・コンタクトレンズ、2枚目・完全に聞く、3枚目・立場。
パート2:リーダーシップの7つの要素(数値で測る)
本来の自分になったら、次はリーダーシップを実践し、数値で測ります。オニオンリーダーシップには、A〜Hの要素があります(ドレミの歌のように繰り返して覚えます)。
– A:範囲(Area) ── 自分の存在範囲。自分ごととして考える広さ- B:立つ位置(Base) ── 自らの選択でその場所に立っているか(覚悟)- C:コミュニケーション ── 組織はコミュニケーションでできている。完全に聞き、最上級の承認をする- D:宣言(Declaration) ── 未来を宣言し、皆を招待して参加してもらう- E:存在(Existence) ── リーダーとしての存在の大きさ(人からの見え方)- F:未来(Future) ── 組織の新しい未来を作る- G:偽物の自分を手放す(Give up) ── 本物の自分でいる- H:調和(Harmony) ── 組織の調和
これらを「リーダー指数(E×(A+B))」「リーダーシップ指数(C×G+H+×(F+二)…)」として点数化し、自分の弱点を見つけます。たとえば「コミュニケーションは高いが、未来の宣言ができていない」と分かれば、そこが伸ばしどころ。半年に1回など定期的に測ると、自分の成長が振り返れます。
特に大事な要素を2つ挙げます。ひとつは約束。どんな些細なことでも自分との約束を守る人は、「この人はやると言ったらやり遂げる」と信頼される(僕が「毎朝ヨーグルトを食べる」と言ったら年間110箱食べる、というように)。もうひとつは宣言。マーティン・ルーサー・キングの “I have a dream” のように未来を宣言し、皆に「私も参加します」とコミットしてもらう。コミュニケーションだけ高くても、宣言がなければリーダーシップは完成しません。
7つの要素の測り方はリーダーシップを数値で測る記事で深掘りしています。
パート3:自走する組織を作る
リーダーシップの最終目標は、組織が自分で動く(自走する)仕組みを作ることです。船出にたとえると、全員が同じタイミングで同じ方向にボートを漕ぐ状態。一人でも逆に漕げば、船はジグザグになる。
自走する組織には、3つの条件があります。
1. 全員が積極的に関わっている ── 関与度の高い企業は、そうでない企業より生産性が46%高いという調査も2. 目的(Why)→指示→行動の順になっている ── 「なぜやるのか」が分かってから指示が出ると、生産性が上がる3. 自分ごとである ── 組織の問題を自分の問題として捉える
そして、これらが働くには「パイ」が必要です。長期の目標と短期のタスクの方向が一致し、数値目標が明確で、全員がコミットしている——その状態が、自走する組織を生みます。
そして最終ゴールが自走する組織の作り方です。
まとめ
オニオンリーダーシップの全体像を整理します。
– リーダーシップは知識でなく実践で身につく。第一歩は本来の自分になること- パート1:玉ねぎの皮を3枚剥く(コンタクトレンズ=意味/ヘッドホン=完全な聞く/チャットボット=立場)- パート2:7つの要素(A〜H)で実践し、数値で自分を測る。特に約束と宣言が要- パート3:全員が同じ方向に漕ぐ自走する組織を作る(全員参加・目的が明確・自分ごと+パイ)
リーダーシップとは、本来の自分を探していく探求の物語です。完璧なリーダー像を真似るのではなく、皮を剥いて本来の自分を見つけ、自分独自のリーダーシップを紡いでいく。それぞれのテーマは、これから個別に深掘りしていきます。まずは、いちばん最初の皮——「コンタクトレンズ」から見ていきましょう。
この記事は、僕が主宰するオンライン講座「スタバード」のリーダーシップ講義(全8回)と、著書『オニオンリーダーシップ』をもとに書いています。MBAやハーバードで学んだ経営の核を、日本語でやさしく届けるために、「MBAに行かない人のための無料メール講座」をやっています。興味があれば、のぞいてみてください。
リーダーシップの全体像をつかんだら、MBA全体を見渡すMBAエッセンス総まとめへ。
